1945年に食用油の生産で起業したウィプロリミテッドは、80年代にITビジネスを開始。グローバルIT部門のウィプロ・テクノロジーズが90年にオフショア開発モデルを構築して発展した。最近はテスティングやERP・CRMなどのバックエンド導入サービスを伸ばしている。市場比率も米国が53%、欧州が27%、日本は3%といった具合だ。
同社はSAPのインプリメンテーションを得意とし、3400人のコンサルタントを抱え、30カ国以上の国々で400以上のプロジェクト実績を持つ。
95年から日本国内で活動をスタートし、現在2000人のエンジニアが70社以上の日本企業にサービスを提供している。
「ウィプロ独自のVプロセス開発手法や、日本のように要件があいまいで、開発しながら固めていく方法に適した反復開発プロセスを活用していく」と述べるのは、ウィプロ・ジャパンでビジネスディベロップメントマネージャーを務める永森久道氏だ。日本の大手ハイテクメーカーのERP導入プロジェクトでは、中国、台湾、シンガポール、インドネシアの8拠点に生産管理を含む6モジュールを12カ月で導入したという。
情報通信白書平成19年版「情報通信に関する現状報告」によると、日本のオフショア開発の相手国は中国が8割(下図)と多く、米国は圧倒的にインドが主流だが、他に中国や欧州、中南米など広く分散している。
日本はオフショア開発委託先の選定ポイントとして、「日本語が使える人材を確保できる」(70.8%)、「委託価格が安い」(59.4%)などを気にするが、米国は「ソフトの高い技術力を持つ人材を確保できる」(62.3%)、「オフショア開発の実績があり評価が高い」(51.9%)など、技術力や実績を優先する。オフショアの考え方が大きく異なっている。
欧米企業では、厳密なSLAの締結によって、サービス内容や品質水準、コスト構造を定義し、かつそれを文書化してお互いが定量的に確認する。小規模オンサイトからオフショアへと発展させ、ODCの開設まで関係を成熟化、オフショアベンダーとの戦略的パートナー関係を構築する。
一方、日本企業が考えるオフショアはいまだアウトソーシングの域を出ない場合が多い。重層的な下請構造で、意思決定に時間がかかる。セキュリティ要件定義もあいまいなまま、走りながら変更を加えていく方法が染み付いてしまっているので、赤字や納期超過することも多い。それが、インドITベンダーが日本市場に入り込めなかった原因でもある。
今、IBMやアクセンチュア、EDSなどのグローバルIT企業がインドに進出しているのは、インドに安い生産力を求めているのではなく、R&Dに向けた頭脳の囲い込みに走っているからだ。
しかし、日本企業の大半は、インドやインド企業を自分たちの市場として見ている。インドと中国と根本的に違うことを認識すべきだろう。「中国は工場を提供し、インドは技術を提供する」という言葉通り、今後インドIT企業をパートナーとしてとらえるか否かで、グローバル市場での成功が左右するかもしれない。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授