イノベーションと言うと、テクノロジーによるものという風に思われがちだが、実はマーケティングによるイノベーションもある。顧客視点を改めて捉えなおしたイノベーションを考えてみよう。
今、あらゆる情報がWebのプラットフォームに集まり、タイピングも含めてすべてがログされる時代になっている。そうして集められる広範に複合化されたデータは解析され、アクセスした人の趣味、志向、行動、習癖などが細かくカテゴライズされている。さらに、それを基にしてRecommender System(AIエンジン)が動いている。つまり、AIエンジンが対象者の行動を左右する時代が来ているということである。
そういう時代の中にあっては、製造業は売り切るビジネスから、顧客とのつながりを大事にするビジネスへと発想を転換する必要がある。製造業の場合は、ハードウェアを売るためにある短期間だけ、営業担当者がひたすら顧客のモチベーションやブランドのロイヤリティをアップさせるが、その期間が過ぎると、彼らの使命は終わりとなる。これでは、顧客との間につながりが生まれにくいから、安定的な成長は難しくなる。
ハードウェアの上に、何かサービス的なものを積み重ねていけば、ビジネスは確実につながっていく。そして、ハードウェア単体だけではなく、サービスの部分にもコミッションを払うようなビジネスに変えていくべきだ。コミッションがあるということは、顧客との間に非常に濃厚なコンタクト・ポイントが持てるということだから、顧客のニーズを的確に把握することもできるわけである。したがって、提案力さえあれば、顧客の財布の紐をいくらでも緩めることができるようになるのである。
そのような転換を図るためにも、製造業は独特の袋小路にはまらないようにしないといけない。つまり、漸進的技術改善への忙しさにかまけたり、高機能・低価格という呪いに縛られたり、商品仕様を顧客ニーズと勘違いしたりするようなことがないようにするということである。任天堂のWiiはある意味、袋小路から脱け出した素晴らしい例である。
製造業にとってイノベーションが大事であることは、今さら言うまでもない。そして、イノベーションと言うと、テクノロジーによるものという風に思われがちだが、実はマーケティングによるイノベーションもあるのだ。
例えばカメラ産業においては、デジタル化というテクノロジーイノベーションがあり、その後、カメラ付携帯電話によるマーケティングイノベーションがあった。しかし、カメラ産業においては、どちらのイノベーションも日本企業がリードしており、世界市場のほとんどのシェアを握っている。
一方、時計産業を見てみると、日本のメーカーは低価格ニーズ、高精度ニーズ、最大公約数の顧客にフォーカスして、テクノロジーイノベーションを実現した。つまり、クォーツ腕時計、光発電ウォッチ、電波時計などを開発し、市場に投入してきた。それに対して、マーケティングによるイノベーションを実現したのがスイスの時計メーカーである。芸術性(工芸)、ライフスタイル、特定セグメントにフォーカスして、スォッチや最も複雑な機械式時計などを主力商品にしているのである。その結果、どうなったかというと、日本の市場で見ると、スイス製の時計は数量ではわずか4%のシェアに過ぎないが、金額ではなんと71%を占めているのである。
製造業という切り口で、出荷台数や出荷金額などのさまざまな統計情報があるが、それらはあくまでも単独の業界団体が発表しているデータである。したがって、それを鵜呑みにすると、どうしても袋小路にはまることになってしまうわけである。
実際のマーケットというのは、単独のインダストリーで形成されているわけではなく、必ず複数のインダストリーにまたがっているのだ。したがって、新しいマーケティングを考える時には、インダストリーというものを忘れる必要がある。なぜなら、あくまでも顧客がいる市場(マーケット)の視点で捉えるのが、本来のマーケティングだからである。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授