IT予算をどう決めるか――調査結果から考えるGartnerColumn(3/3 ページ)

» 2008年07月04日 09時31分 公開
[小西一有(ガートナー ジャパン),ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

 さて、もう1つ分かりやすい事例で話をしましょう。これもあるCIOから伺ったお話です。

 「今年はね、ERP導入プロジェクトが佳境でね……会議が増えて忙しいよ……」

 瞬間的に、わたしはこう思いました。「ERP導入プロジェクト」なのですね……と。経営トップにも同じ言葉を使っているならば、大問題になると思いました。(往々にして、同じ言葉で説明されるようですが)

 繰り返しますが、経営トップは、ITの価値をビジネスパフォーマンスの変化に置き換えて説明した方が理解してくれます。しかし、プロジェクト名が「ERP導入」では、経営トップは、それが何の目的のプロジェクトなのか分かりません。

 しかも、仮に所定の効果が出なかった場合に詰腹を切らされるのは、ERP導入なんて言葉を使ったCIOの可能性が高くなります。ERPは、業務改革を進める上でのツールのはずです。「業務改革プロジェクト」の中でERPというツールを調達し導入するだけのことです。本来的な意味である、プロセス改善、意識の変革などの部分でのリスクマネジメントが手薄になっていないでしょうかと心配してしまいます。

 プロジェクトを始める前に、プロジェクトの目的や目標、スコープの設定などの基本的な定義が行われるはずですが、ここにはビジネスパフォーマンスにかんする記載が多く存在するはずです。このビジネスパフォーマンスの達成度がITの価値そのものであると説明することはできないでしょうか。

 では、システムインフラを整備するプロジェクトではどうでしょうか。そもそも「システムインフラ整備プロジェクト」という名前が良くありません。われわれは「ビジネス成長の支援プロジェクト」と呼んでくださいとお願いします。インフラを整備することにより、ビジネス成長にどのような影響を与えるのかを明確にして、経営トップに説明すべきですとアドバイスします。

 少し違和感を持たれている方もいらっしゃるかもしれません。それは残念ながら、ビジネスパフォーマンスを近視眼的に売上高や経常利益などの財務成績だけにとらわれている方が多いからです。ビジネスパフォーマンスは、売上高だけでなく、顧客維持率、商品・サービスの開発期間やブランドイメージなど多種多様なものが対象になります。特に財務成績は企業活動の結果として現れる数字ですから、将来的な企業価値を何ら示さないことに注意をしなければなりません。

 ここまでの説明で多くの読者が、さらに疑問に思うでしょう。「IT予算は幾らなら正しいのか。指標はないのか」と。

 ガートナー エグゼクティブ プログラム では、こう回答します。「貴社の主要なビジネスプロセスに対応したIT費用を算出してください」と。「このプロセスを稼働させるためにこのIT費用が掛かっています」と経営トップに説明してください。可能ならばIT費用だけではなく、他の費用も説明してOKをもらえれば妥当な費用です。NGならば、何故NGなのかをほかの費用も含めて具体的にブレークダウンすることが重要です。

 他社との比較は問題ではありません。なぜならば、他社と全く同じビジネスプロセスは存在しないからです。経営トップは、自社が競争優位に立てるビジネスプロセスが何であるかをよく知っています。そこに投資が集中しているならば文句は言いません。しかし、コモディティ(自社が競争優位を生み出さない)化しているビジネスプロセスに対して投資されているならば、NGを出すでしょう。

 経営トップはあくまでもビジネスへのインパクトを念頭に判断し、意思決定します。他社と同じかどうかは、重要ではないのです。CIOであるあなた自身が自社のビジネスを理解し、ビジネスを成立させているプロセスの中で、ITがどのように貢献しているかを、日頃から気にしているならば、IT予算が他社並みかどうかは議論の的にはならないのです。

過去のニュース一覧はこちら

著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー

小西一有

2006年にガートナー ジャパン入社。それ以前は企業のシステム企画部門で情報システム戦略の企画立案、予算策定、プロジェクト・マネジメントを担当。大規模なシステム投資に端を発する業務改革プロジェクトにマネジメントの一員として参画した。ガートナーでは、CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」の日本の責任者を務める。日本のCIOは、経験値だけでなく、最新のグローバル標準を研究した上で市場競争力を高めるべきとの持論を持つ。


関連キーワード

経営 | CIO | ERP | 経営者 | インフラストラクチャ | CA | BI


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆