ホワイト氏がホテル業界に足を踏み入れたのはたまたまだった。国際関係の大学院の学位を生かして生計を立てるのは、難しいことが分かったのがきっかけだ。同氏はシェラトンのナイトマネジャーの仕事に就いた。「家賃を払わないといけなかったから」とホワイト氏。「いざ働いてみると、素晴らしいビジネスだと思った。わたしはホテルで初めてITに触れた。仕事がなかなか片付かないという悩みから、それを解消してくれるものとしてソフトウェアに興味を持った」
ホワイト氏は業界で頭角を現し、ノースカロライナのゴルフリゾートでホスピタリティ業務を統括するまでになった。同氏はこのリゾートで、予約・コーススケジュール管理システムの開発に貢献。その結果としてペガサス・ソリューションズなど、ホスピタリティ業界向けソフトウェアを手掛ける一連のベンダーでキャリアを重ねることになった。またホワイト氏とドゥローシャー氏は、業界標準化団体オープン・トラベル・アライアンスの仕事に共同で取り組んだ。
アウトリガーから声が掛かったとき、ホワイト氏は、最後に勤めた会社で得た現金でアリゾナのブティックホテル(デザイナーズホテル)を買い取り、経営しようと考えていた。同氏はコンサルタントとしてハワイに向かい、間もなくオペレーション・IT担当副社長となった。「わたしはホテルを買おうとしていた」とホワイト氏。「そのころジョーが、『困っているんだ』と言ってきた。それ以来そのまま6年もここにいる」
03年、ホワイト氏がアウトリガーで初めて前向きなプロジェクトに取り組むときが来た。9.11ショックからハワイ観光がようやく持ち直し始めた頃、ドゥローシャー氏とホワイト氏は、IT環境の刷新に本格的に着手した。「それまでは投資が止まっていた」とホワイト氏は回想する。「業務がバラバラに行われている状態だった。システムの相互運用性がまったく確保されていなかったためだ。基本的な部分もまるでできていなかった。ほかのホテルは自動化を進める必要性を既に認識していた。ところがわれわれときたら、普通ならコンピュータが処理することを人手で行っていた」。例えば、宿泊客がホテルのオペレーターに電話をかけると、スタッフは宿泊客リストでその人の名前を調べて、フレンドリーな挨拶をしていた。
「改革に挑むか、座して死を待つかだった」とホワイト氏。「ジョーが地ならしをして、わたしが必要な技術の導入を始めた。以前は、われわれはスタッフのがんばりだけでほかのホテルと互角に渡り合っていた。だが、定型的な業務の自動化が、競争の勝敗を左右するようになってきていた」(後編に続く)
ホワイト氏がアウトリガーで正式に働き始めた日は、2001年9月11日だった。テロ攻撃後に連邦政府が航空機の発着を禁止したことで、ハワイ滞在者は足止めされた。アウトリガーは途方に暮れた宿泊客に、翌週にフライトが再開されて彼らが帰宅できるようになるまで、社員料金を適用した。だがその後、客足はぱったり途絶えた。
「9月11日は満室だった」とケアリー氏は振り返る。「飛行機がまた飛び始めたとき、まず宿泊客の50%がチェックアウトし、さらに25%、10%といった具合に次々に帰っていった。その後はチェックインする人がいなくなった。カラカウア・アベニューに寝転がって昼寝をしても、車にひかれずに済んだはずだ。背筋が寒くなる状況だった。ビジネスが回復するのか、するとしてもそれは一体いつになるのか、見当もつかなかった。われわれはサバイバルモードに突入し、ひたすら守りを固めることに徹した」
「開店休業のような状態が続いた」とホワイト氏は付け加える。「毎週が戦いだった」
客室稼働率は88%から12%に一気に落ち込んだ。社員は仕事を分け合い、週に4日勤務して休暇を取った。アウトリガーは3カ所のホテルを閉鎖したほか、資産を安値で売却することも検討した。「だが、創業家が私財を投入して会社を存続させた」とホワイト氏は語る。「アウトリガーはこの土地の人々に誠意を尽くした。われわれの会社はオハナ(ハワイ語で「家族」の意)をとても大事にしている。会長は、われわれが運営するハワイ諸島の施設のハウスキーパーのうち、半数の名前を言える」
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授