情報を所有する時代から利用する時代となり、巨大化するデータセンターの電力消費量は単なる経費とは呼べなくなっている。
経済産業省でグリーンIT政策を担当する、商務情報政策局 情報通信機器課の星野岳穂参事官は、早稲田大学で講演し、「地球温暖化問題を解決すべく、世界全体で電力消費量やCO2排出量の抜本的削減を進めようと議論している中で、IT機器だけは情報化だからと無制限に電力消費を増加させていいというわけにはいかない」としてグリーンIT推進の必要性を強く訴えた。以下はその講演内容の一部をまとめたものだ。
最近、ITの世界で「グリーンIT」という言葉がさかんに使われるようになった。世界の主要な企業が、グリーンITを主要戦略の1つに位置付けている。
地球温暖化問題が世界的な重要課題となる中、日本は2007年6月にポスト京都議定書の国際的枠組みとして「世界全体で、2050年までに温室効果ガス排出量を半減」を提言した。その具体的な方策として福田総理は2008年1月のダボス会議で「クールアース推進構想」を提案したが、その講演の中で、CO2を抜本的に削減する方策の1つとして「グリーンIT」の推進を挙げている。
この「クールアース推進構想」では、世界全体で2020年までに30%のエネルギー効率を改善することが目標として設定されている。そして、それを実現するために、世界全体で資金を集めるためのパートナーシップを作り、途上国の温暖化対策を支援していくと同時に、環境・エネルギー分野で革新的な技術開発を推進していくことにしている。
革新技術は21の分野で特定されており、そのうちITに直接関係ある分野だけでも5項目が取り上げられている。具体的には、コンピュータ等IT機器自体の省エネ化、パワーエレクトロニクスによる自動車や工場の省エネ化、住宅やビル全体のエネルギーの管理などがある。もちろんその他の分野も、ITの活用無しに革新技術は実現しないだろう。ITにかける期待がいかに大きくなっているかが分かっていただけるだろう。経済産業省の試算では、日本が今後取り組まなければならない省エネ全体の、実に3分の1はITによって実現されると見ている。
資源エネルギー庁は、CO2排出量を削減する努力を現状のままでやめてしまうと、2030年には2005年度比で11%も増えてしまうと分析している。一方、革新的な技術を開発して市場に投入したり、産業構造やライフスタイルを改革したりと、最大限の努力をすれば22%減らせるとしている。
それを実現するためには、産業分野の更なる省エネはもとより、従来どうしても省エネが進まなかった民生分野(オフィスビルや家庭・住宅)での電力消費の削減が不可欠である。そして、それを実現する鍵を握るのが「グリーンIT」である。
コンピュータは従来、まさに画期的な新技術として、業務の効率化や生産性の向上、利益拡大の手段として社会に加速的に普及していった。やがてインターネットの時代となり、社会生活やビジネスモデルそのものを変革しながら高度情報化社会をさらに進めていった。必然的に、IT機器の消費電力が増大したが、それは社会の利便性、効率性を高める上でやむを得ないと思っていた節がある。
しかし、最近はIT機器の消費電力が急増し、そうも言っていられなくなってきた。ブロードバンド時代になって高精細な動画が数多く飛び交うようになり、インターネット上を駆け巡る情報量が加速度的に増えてきているからだ。国内では、インターネットを飛び交う情報量が控えめに見積もっても2025年には現在の約200倍に増大すると予測している。ネット上のトラフィックだけで200倍であり、更にその膨大な情報を保存したり、処理したり、解析したりするわけだから、IT機器の必要台数や消費電力は驚異的に増大することになる。
社会が取り扱う情報量は、実はこれまでも指数関数的に増加してきたのだが、一方で半導体等のIT技術も革新的に進歩続け、コンピュータの性能は大幅に向上し、消費電力も削減されてきた。
しかし、昨今の情報量の増大速度はあまりにも大きく、IT技術が従前通り今後も進歩し続けたとしても、2025年には国内のIT機器による電力消費量は現在の5倍、国内全消費電力量の20数%を占めることになる。これは地球温暖化の関係のみならず、電力供給の面からも、非常に由々しい問題である。
地球温暖化問題を解決すべく、世界全体で電力消費量やCO2排出量の抜本的削減を進めようと議論している中で、IT機器だけは情報化だからと無制限に電力消費を増加させていいというわけにはいかない。持続可能なIT社会の実現のためには、何としてでも現時点からITの省エネ、つまり「グリーンIT」を推進しなければならない。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授