中央銀行総裁が人民元切り下げを示唆中国ビジネス最前線

中国では先行き輸出のさらなる減速が懸念されており、中国人民銀行の周総裁は人民元を切り下げる可能性を排除しない旨を明らかにした。

» 2008年11月25日 11時20分 公開
[内田総研グループ,ITmedia]

▽人民銀総裁、人民元切り下げを示唆

 中国の中央銀行である中国人民銀行の周小川総裁は11月11日、ブラジルで行われた国際決済銀行(BIS)の会議に出席した際に、「経済成長を維持するためには輸出の低下を食い止め、人民元切り下げの可能性も排除しない」とコメントした。

 周総裁は「中国人民銀行はいかなる利用可能な手段も排除していない。ただ現段階において中国の国際収支には際立った変化がないため、人民元切り下げの議論はまだ時期尚早」とも述べた。

 対外経貿大学金融学院の丁志傑副院長は「中国の輸出は非常に厳しい局面に入っており、政府は人民元の切り下げを通じて輸出を回復させ、一方的な人民元高に歯止めをかける可能性はある」としている。

 中国では、2005年の人民元為替レート改革以降、人民元の対ドルレートは上昇し続け、2008年7月までの累計で16%近く上昇している。ここ2カ月の対ドルレートは、1ドル=6.83〜6.85元(1元は約15円)で動いている。


▽ADB、金融危機に耐えるアジア経済

 アジア開発銀行(ADB)の黒田東彦総裁は11月7日、米ニューヨークで行われたシンポジウムで、「アジアはここ最近、明らかな経済成長のスローダウンが見られ、経済情勢はさらに悪化する可能性がある」との見方を示した。

 現在のアジアは10年前のアジアと異なり、外部からの衝撃を受け止める強さを持っているとも語った。黒田総裁はその理由として次の3つを挙げた。

1. 現在のアジアは良好な外部条件と大量の外貨準備を持っている

2. サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅投資)や金融派生商品(デリバティブ)の混乱によってアジアの金融機関は影響を受けたが、その影響は比較的小さい

3. 1997年の金融危機後にアジア各国がとってきた一連の慎重な経済政策が外部からの衝撃を緩和する作用を果たしている


▽内需拡大策、5千億元の実施決定

 11月12日召集された中国政府の国務院常務会議で、先に採決された4兆元の内需拡大策の具体的な実施方法が検討され、第一陣の5000億元の実施内容が決定した。

 具体的には、以下の4点が決定した。

1. 固定資産投資:西部の天然ガスを東部に送る東ルートプロジェクトなど3項目に、総額2059億元を実施する

2. 一部製品の輸出税還付率の引き下げ:労働集約型の中小企業を支援するため、輸出税還付率を一部引き上げ、一部鋼材や化学工業品、食糧の輸出税を廃止し、化学肥料の輸出税を引き下げる

3. 四川大地震の災害復興に、中央財政の地震災害復興基金から3000億元を拠出する

4. 林業の生態系回復のサポートを強化:大雪や四川大地震で被害が深刻な林業の生態系回復に力を入れる。2010年までに林区の住民の生活や林業の生産を正常な水準に回復させる


▽EUおよび米国、金融規制で中国と合意

 欧州連合(EU)と米国は11月13日、外国通信社の金融情報サービスの配信規制を見直すことで中国と基本合意した。中国では外国通信社が顧客である金融機関などに情報を直接提供できず、EUと米国が世界貿易機関(WTO)に提訴していたが、同日の合意に沿って中国は2009年6月から配信規制を見直す。

 EUのアシュトン欧州委員(通商担当)は「今回の合意で(中国の)投資家や市場関係者は客観的な金融情報を入手できるようになる」と語った。

 中国はこれまで外国通信社に対し、国営の新華社通信の系列企業を経由して金融情報サービスを提供するよう義務付けてきたが、13日、EUと米国に対し、金融情報の直接提供を認め外国通信社の自由な活動を保証すると伝えた。



※この記事は内田総研グループ発行のメールマガジン『士業・net』の一部を加筆・修正し、許可を得て転載しています。

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