【第11回】同族経営を侮るなかれミドルが経営を変える(2/2 ページ)

» 2008年11月27日 08時30分 公開
[吉村典久(和歌山大学),ITmedia]
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創業家が伝統を守る

 以下に、上場企業の長寿会社を示した。

会社名 社齢(歳) 創業年 創業時の事業 会長 社長
松井建設 422 1586 城・社寺建築 松井角平 松井隆弘
住友金属鉱山 418 1590 鍋の製錬・細工
養命酒製造 406 1602 薬用酒 (なし) 塩澤太朗
キッコーマン 347 1661 醤油製造 茂木友三郎
岡谷鋼機 339 1669 金物商 (なし) 岡谷篤一
住友林業 317 1691 林業 (なし)

 (注)『日経産業新聞』2005年7月24日のデータを基に筆者作成。横線は非創業家出身者がその役にあることを示す

 400歳代および300歳代の企業5社に同族色を見ることができる。会社名と経営トップの名を見れば松井建設と岡谷鋼機の2社は明らかである。養命酒製造については、同社の会社概要に「養命酒は、慶長7年(1602年)信州伊那の谷・大草(現在の長野県上伊那郡中川村大草)の塩沢家当主、塩沢宗閑翁によって創製されました」とある。またキッコーマンの前身は、千葉県野田市周辺で醤油製造業を営んでいた茂木五家、高梨家、堀切家、向店家の「創業八家」が合同して設立した会社である。同社で創業家以外から社長が選ばれたのは、平成に入ってからである。

 こうした存在感の大きさに加え、企業の統治構造と経営成果に関する最近の研究によって、同族が経営に関与する企業は高業績を誇る企業が多いことが明らかになっていることも、研究者の注目を集めている理由の1つである。

 日本のみならず、欧米各国の企業を対象とした実証分析がわれわれの常識に反した結果を示している。米国の代表的な経済誌『Business Week』の2003年11月10日号に掲載された「FAMILY, INC」特集の冒頭には、ファイナンス論の権威ある研究雑誌に掲載された研究結果に基づき、以下のように記されている。

“Surprise ! One-third of the S&P 500 companies have founding families involved in management. And those are usually the best performers”

(サプライズ! S&P500社の3分の1では、創業家が経営に関与している。それらのほとんどは、この上ない業績をみせている)


優良企業に同族の色あり

 日本でも、定量的な統計分析あるいは定性的な事例分析が進められており、同族が経営に何らかの形で関与する会社は同業他社に比べて見事な業績を上げている会社が多いことが分かっている*4

 花王、キヤノン、シマノ、シャープ、信越化学工業、(旧)セブン−イレブン・ジャパン、武田薬品工業、トヨタ自動車、任天堂、本田技研工業、マブチモーター、三菱重工業、(旧)ヤマト運輸など。日本のエクセレントカンパニー研究にしばしば顔を見せる会社が並んでいる。このうち株主あるいは経営トップとして、同族色をまったく見ることができないのは半数に満たず、花王、信越化学工業、本田技研工業、三菱重工業の4社だけである。残りには、何らかの同族色を確認できるのである。

 なぜ業績がいいのか? 一度、じっくりと考えてもらいたい。まだまだ、学べる点が多いはずである。


*4 例えば以下を参照。齋藤卓爾[2008]「日本のファミリー企業」宮島英昭編『企業統治分析のフロンティア』日本評論社。倉科敏材編[2008]『オーナー企業の経営―進化するファミリービジネス』中央経済社

プロフィール

吉村典久(よしむら のりひさ)

和歌山大学経済学部教授

1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。


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