形骸化した権威をひたすら守る組織の一員として、旧弊を破る行動をした勝海舟に学ぶ点は多い。今求められるのは成熟しきった組織に変革を呼び起こすプロジェクト型人材である。
太平の世を経て、外国から開国を迫られていた江戸後期。統治組織が整い安定すると勤めは次第に形式化し、規則は煩雑、厳重なものになっていった。
将軍に召し出された役人は御座の間に平伏し侍している。将軍から「それへ」と言われると匍匐(ほふく)したまま膝を上下し前には進まず、その場を動かないのが礼儀とされた。将軍の威に打たれて近づき難いという意味の慣習であった。
この慣習を破ったのが勝海舟で「国難に直面しているときに、つまらぬ旧慣を墨守するのは幕府のためにならない」と論破した。弱体化していたとはいえ、権力を持つ組織の中にあって旧弊を破る発言、行動をした勝海舟に学ぶべきことは多いのではないか。
ひるがえって現代。大都市の自治体で昇進試験の受験者が激減しているそうである。若い職員が管理職の仕事に魅力を感じられなくなった、生活や価値観が多様化しているといったことに原因を求めがちであるが、問題はもっと構造的なものである。その構造が自治体の業務改革やその有力手段であるIT導入をはばむ要因にもなっている。
地方自治法第二条第二項では地方公共団体は「地域における事務及びその他の事務で法律またはこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する」ことが定められている。
平たく言えば国が法律や政令で決めた行政事務を下請けとして担当するのが自治体と言える。国を大企業とすれば、その仕事の一部を担う下請け中小企業の役割が自治体である。特に窓口業務と言われるものなどがそれに当たる。窓口業務は国が主管する業務の委託なので全国一律サービスとなる。
戸籍謄本を取るときに、その内容が人口365万人の横浜市と1万人程度の小規模自治体で異なっていては困るからである。
戸籍サービスはITを活用して行うのが一般的である。一律サービスのためには要求機能は同じである必要がある。そこで所轄する総務省がキッチリとしたひな型を作り、それに基づいて自治体がITシステムを調達するという形を取る。発注形式はプロポーザルであっても中身は同じようなものにならざるを得ない。
自治体が独自に戸籍システムを企画立案して導入するということにはならないのである。工夫のしどころもアイデアの出しどころもない。こうなると、勝海舟的な人物は出にくい。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授