企業の組織における「せいだ病」のまん延を防げ問われるコーチング力(1/2 ページ)

2008年もさまざまな出来事があった。中でも特に世相を反映するキーワードを取り上げて、ビジネスコーチングの視点から分析してみたい。

» 2008年12月10日 08時45分 公開
[細川馨(ビジネスコーチ),ITmedia]

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 気が付けば2008年も残すところわずかとなった。皆さんにとって今年はどんな年だったろうか。ビジネスコーチングの視点からこの1年を振り返り、キーワードとなる点について考えていきたい。

 2008年は、秋葉原での殺傷事件や元厚生次官の連続殺傷事件など、無差別に人を殺傷する事件が相次いだ。何の理由もなく、突然人を殺したり傷付けたりする。実に物騒な世の中になってきたが、この原因は何だろうか? 今年を象徴するキーワードである「せいだ病」を取り上げたい。せいだ病とは、「自分がこの状態にあるのは、あいつのせいだ」、「自分が不幸なのは、世の中のせいだ」というように、すべて他人のせいにすることである。

恐ろしい形相をする「せいだ病」の患者たち

 以前「思考の枠」について話した。「自分は正しい」「自分が一番である」と考える。上記のような無差別殺傷事件を起こす人たちは、この「思考の枠」にとらわれ、うまくいかないことを他人や社会のせいだと主張する。彼らの顔を見ると、とても恐ろしい顔をしている。自分の考え方に凝り固まり、人を寄せ付けない。共通しているのは、人とあまり話をせず、孤独な点である。

 人間には、仲間と一緒にいたい、仲間と何かを成し遂げ、やりがいを感じたいという欲求がある。仲間を大切にし、世の中や社会のために貢献したいと思っている人の顔は、とても明るく、生き生きとしている。人の意見を聞き、ポジティブに考えている人たちの顔は柔和である。「自分だけが正しい、社会は敵だ」と主張する人の顔とは対照的である。

 顔を見れば、どのようなことを頭の中で考えているのか、一目瞭然である。最近街中を歩いていて感じるのは、顔の険しい人、孤独で近寄りがたい人が増えてきたということである。これは危険な状態である。ここで考えてほしいのは、「わたしたちは今本当に不幸せだろうか?」ということである。過去の歴史を振り返ると、今の日本は不幸だろうか? 戦時中や終戦直後の何もなかった時代と比べると、わたしたちは現在ありとあらゆるものを簡単に手に入れることができる。基本的に衣食住が整い、教育を受けられるし、自由も享受できている。こんな時代はこれまでの歴史上なかったはずである。それでもわたしたちは何かが足りないという。

本当にあなたは不幸なのか?

 コーチングの原点として提案したいことがある。それは、「今の自分は幸せである」と思うことである。わたしたちは往々にして、自分が持っているものに目を向けず、自分が持っていないことばかり気になる。自分にはなぜこれがないのか、なぜ不運なのかを考え不安を口にする。

 わたしはマスメディアの影響もあるはずだと考える。連日テレビや新聞で不況だ不況だと報道され、不安を駆り立てられている人も多いだろう。不況だからといって明日にでもすぐに死んでしまう人は、今の日本にはそれほどいない。世界には紛争や飢餓で死んでいく人が絶えない中、わたしたちはすぐにそうした状態に陥ることはない。にもかかわらず、自分が満たされていないとばかり口にする。

 まずは、自分が今持っているものに目を向けて、それに感謝し、幸せであると感じること。それが大切であるし、そう感じられたのであれば、無差別な事件を起こすこともなくなるはずである。わたし自身は自分がとても幸せだと思っている。そこそこ健康に恵まれ、素晴らしい友人や家族がいる。信頼できる社員に囲まれて、彼らと一緒に仕事に打ち込むことができている。

 わたしたちは、あるのが当たり前だと思うことはなかなか気付かない。自分の周りをもう一度見渡してほしい。わたしたちはあらゆるものを手にしているのである。自分の身近にある、すでに手にあるものに感謝しないと、足りないものばかりが目につき、不幸せになるだけである。

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