もう一つ、オバマ氏が次期大統領候補になると目されるようになった、1994年の民主党大会の基調演説での有名な一文を紹介する。
「わたしは今夜、彼らにこう言います、リベラルなアメリカも保守的なアメリカもありはしない――あるのはアメリカ合衆国なのだと。黒人のアメリカも白人のアメリカもラテン系のアメリカもアジア系のアメリカもありはしない――あるのはアメリカ合衆国なのだと」
[出典:『オバマ演説集』(朝日新聞出版社)P.45]
この一文には、実際に「われわれ」という言葉は使われていない。しかし、「われわれ」という視点に立って、さまざまな人が集まって成り立っているアメリカという国を「アメリカ合衆国(United States of America)」という言葉で表現し、国民の心をつかんだのである。
わが国のリーダーたちがしばしば失言で非難されるのは、常にどんな場所でも自分の言葉が聞かれているという認識が不足しているからだ。これからのリーダーは言葉の重要性を認識するとともに、「わたしたち」「われわれ」――Weという視点で考え、話していくことが不可欠だ。
次に、リーダーは組織の上ではなく、下にいるということを肝に銘じることが必要だ。前述の通り、オバマ氏は選挙戦を戦う中で“Yes, We Can”という言葉をスローガンに掲げた。自分が上に立つのではなく、全員で頑張ろう、そうすればわれわれは必ずやり遂げられるというメッセージを発し続けたのだ。
一方で、日本では日比谷公園に設置された派遣村をめぐり、「本当にまじめに働こうとしている人たちが集まっているのか」という政務官の発言が、撤回、謝罪へ発展するという事態が起きた。問題となった発言は、上の立場からの発言であり、彼が「自分は成功者だ」、「自分は偉い」という考えを根っこに持っていることをうかがわせた。わが国の前のリーダーが辞任する際に発言し、昨年の流行語にも選ばれた「あなたとは違うんです」も同様だ。そういうリーダーには誰もついてこない。
改めて認識しなければならないことがある。それは、「リーダー自身には力がない」ということだ。リーダーとは、自分に力がある人を指すのではなく、組織に属するメンバーの力を引き出す人を指す。メンバーそれぞれが持つ能力を引き出し、それを組織の成長に活用する。問題が発生したときには、リーダーが答えるのではない。答えは皆の中にある。皆に活躍する場を提供して、力を思う存分発揮してもらうことがリーダーの責務ある。
リーダーは組織の上にいるのではなく、組織の下にいる――縁の下の力持ちに徹することを認識して、行動すべきである。
リーダーとして、オバマ氏から学ぶことは多い。リーダーの方たちは、これを機会に是非自身の言動を振り返り、もし間違っていると思うなら、改善に努めて欲しい。われわれは「変われる」のだ!
細川馨(ほそかわ かおる)
ビジネスコーチ株式会社代表取締役
外資系生命保険入社。支社長、支社開発室長などを経て、2003年にプロコーチとして独立。2005年に当社を設立し、代表取締役に就任。コーチングを勤務先の保険会社に導入し、独自の営業システムを構築、業績を著しく伸ばす。業績を必ず伸ばす「コンサルティングコーチング」を独自のスタイルとし、現在大企業管理職への研修、企業のコーポレートコーチとして活躍。日経ビジネスアソシエ、日経ベンチャー、東商新聞連載。世界ビジネスコーチ協会資格検定委員会委員、CFP認定者、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授