「経営者、業務部門、IT部門の三者の利害は決して一致しない」――JTBの志賀常務は語る。プロジェクトが失敗する主要因もこれだ。そこで関係者全員を巻き込み、かつ全責任を一人の担当者に負わせるという大胆な体制をつくり、業務改革を推進した。
なぜシステム開発プロジェクトは失敗するのか。多くは要件定義の不備やコスト管理の甘さなど、ユーザー部門とIT部門の意識の違いに起因する。ジェイティービー(JTB)の常務取締役で経営企画部門、事業創造部門、およびIT部門を担当する志賀典人氏は、プロジェクト成功のためには「受益者負担を徹底し、ユーザー部門に最後まで責任を持たせる体制が不可欠」と話す。
――志賀さんは2005年からCIO(最高情報責任者)として経営企画部門とIT部門を兼任しています。経営トップからどのような期待があったのか、着任のいきさつを教えてください。
志賀 JTB社内において当時、インターネットサービスを含め今後はITが経営の軸になることは間違いないという機運が高まっていました。特に旅行業の場合は、情報システムそのものが販売ツールといっても過言でないため、今までのように業務改善のためだけではなく、営業戦略としてのIT導入を考える必要がありました。特に佐々木隆会長(当時は社長)の意識が高く、ITと経営戦略を同じ人間が担当すべきだという方針が下りました。それまでJTBでは技術出身者がCIOを務めていましたが、経営企画を担当していたわたしがIT部門も兼務することになりました。とはいえ、わたしはITの専門家ではないので、前任のCIOを子会社であるJTB情報システム(JSS)の社長になってもらい、連携していく構図にしました。
しかし1年ほど経って、単に形式的な連携ではなく実質的にお互い協力し、グループ全体でシナジー効果を高めていくことが必要だと痛感しました。なぜなら従来からJTBでは、IT部門とユーザー部門のコミュニケーションエラーによって、いくつかのプロジェクトでトラブルが見られたからです。ユーザー部門側はプロジェクト開始後も次々に要求を加える一方で、システム開発を担当するJSSはベンダー意識が強く、ユーザー部門の要求に一生懸命応えていました。その結果、計画以上に膨大なコストが発生することもありました。
そこで、IT戦略委員会を立ち上げてJSSをその事務局とし、グループ全体のIT戦略を担ってもらうようにしました。同委員会の運営はJSSのスタッフだけでなく、ユーザー部門の人間にも入ってもらい、お互いにIT投資がどう経営にはね返ってくるのか、投資対効果を把握できるようにしました。
IT戦略委員会と併せて、開発プロジェクトの発案から最後のサービスインまで一人の人間が責任を負う「プロジェクトオーナー制」をつくりました。プロジェクトオーナーは基本的にユーザー部門側が担当するようにしています。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授