米国史上で最も優秀なキャリアを持つ大統領夫人(ファーストレディ)となったミシェル・オバマ。プリンストン大学に入学以降、エリートコースをひた走っていた彼女の人生を大きく変えたのがオバマとの出会いだった。無論、オバマも同様である。
米国に新しい大統領が誕生してはや数か月。オバマ大統領の人気はいっこうに衰えを見せないが、ミシェル夫人もまた、知性と率直さ、ウィット、落ち着いた物腰などで、大統領にも勝るとも劣らぬ人気であるという。大統領就任直後の好感度調査では、歴代最高の49%であったとか。
「この16年間、ずっとわたしを支えてくれた親友であり、わが家の礎(ロック)であり、わたしの最愛の人であり、次期ファーストレディである彼女、ミシェル・オバマの存在なくしては、わたしはいま、この場に立っていられなかった」(2008年11月4日 勝利の日に)
全世界が注目するオバマ米大統領をしてこう言わしめる、ミシェル夫人とはどんな女性であろうか。本書は、シカゴの黒人居住区・サウスサイド、労働者階級出身のミシェルが、たゆまぬ努力と不屈の決意で人生を切り開き、バラク・オバマと出会い、厳しい選挙戦を勝ち抜き、初のアフリカ系アメリカ人のファーストレディとなるまでを描いている。
豊かではないが愛情あふれる家庭に育ったミシェルは、プリンストン大学、ハーバード・ロースクールへと進み、シカゴの一流法律事務所のエリート弁護士となる。史上最も優秀なキャリアを持つ大統領夫人である。キャリア街道をひた走っていたミシェルの人生を大きく変えたのは、オバマとの出会いである(ミシェルが教育係で、オバマが研修生だったのだ)。オバマとの出会いを契機に、ミシェルは本当に自分が望んでいた公共奉仕の世界へと転身することになる。そしてオバマもまた、ミシェルとの出会いによって「地に足のついた男」へ変わっていくのである。
オバマ夫婦の強いきずな(著者曰く「お互いに対する信頼は、もはや忠誠の域に達している」)は感嘆するばかりだが、2008年の大統領選挙戦のくだりは、日本にいてはなかなか気付くことのない米国の一面を思い知らされ興味深い。この大統領選は米国史上、初めてのアフリカ系大統領(オバマ)、初めての女性大統領(ヒラリー・クリントン)、そして一期目としては最年長の大統領(ジョン・マケイン)が誕生する可能性があり、どの候補が選ばれても歴史的なことであったのだ。どの候補が選ばれた場合でも、人種差別、性差別、年齢差別の表面化は避けられなかった。大統領候補の配偶者であるミシェルもまた、ライバル陣営からの攻撃を免れることは、容易ではなかった。
本書では米国がなぜこの若い大統領夫婦に変革(チェンジ)と希望(ホープ)を託したかが見えてくる。ミシェルを知ることは、オバマ大統領を、そして米国を理解することでもあると実感させられる1冊である。
解説は、ベストセラー『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』『オバマ・ショック』の著者、町山智浩氏。アメリカでファーストレディがどうしてここまで注目されるかを軽妙に語っている。
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明治学院大学 経済学部准教授