ビジネスのさらなる拡大を追い求めて、多くの日本企業がBRICsをはじめとする新興市場へ飛び込んだものの、商習慣の違いなどに苦しみ撤退を余儀なくされた企業は少なくない。長年ロシアでビジネスを展開するソニーの現地法人の日比社長に、異国で成功をつかむための勘所を聞いた。
新興勢力であるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の総称)の一員として、エネルギー資源価格の高騰を武器に急激な経済成長を遂げてきたロシアが今、一転して苦しんでいる。原油価格の下落に加えて、昨秋以降の金融危機が直撃し、2009年のGDP(国内総生産)は11年ぶりとなるマイナス成長(−2.2%)を記録したのである。
そうした厳しい経済状況に置かれた今、ロシアでの市場競争はより過酷さを増すと言えるだろう。ソニーの現地法人であるソニーCISの日比賢一郎社長に、ロシアビジネスで勝ち抜くための秘策を聞いた。
――世界を揺るがす経済危機はロシアにとっても他人事ではないと思います。ロシア市場の現状について教えてください。
日比 この危機が起こるまでの2〜3年間、ロシアはかつてない成長を続けていました。特に2004年ごろは消費ブームに沸いていました。その背景には資源の高騰があります。ご存じの通り、ロシアは資源大国で、石油、天然ガス、鉄鉱石、ダイアモンドなどあらゆる天然資源を持っています。
ロシア赴任は2回目で、前回は1998年から2001年に駐在していました。ちょうどそのころにロシア財政危機が発生しました。ルーブル(ロシアの通貨)が暴落し、1997年に約500億円だった当社の売り上げは、1998年には100億円程度まで下がりました。その後、足掛け8年で売り上げを10倍にして、2006年にかねてからの目標だった1000億円に到達しました。さらなる成長路線を描いていた矢先にリーマン・ショックが起きたのです。
ロシアの市場を語るときに最も重要なのが石油です。石油の価格次第で国の景気が大きく変わります。2008年7月には1バレル130〜140ドルでまさにバブル状態でしたが、2009年2月には45ドルまで下がりました。国の経済が破たんするほどのインパクトでした。そのほか、株価は70%も下がり、ルーブルも大幅な安になりました。今回の経済危機で世界中が苦しんでいますが、ロシアはその中でもトップ5に入るほどの打撃を受けました。
当然、ソニーCISも煽りを受けています。これまで目標通りの売り上げを達成していましたが、2008年10月以降は落ち込んでいます。2009年は正直先が読めない状況です。そうした中で、1年先、10年先ではなく、次の3カ月間をしっかりと見据えたビジネスプランを立て、リスクを最小化するかが重要です。
ロシアの市場は非常にダイナミックで、落ち幅も大きいけれど伸びるのも早いのです。今まではいかにビジネスを伸ばすかを考えていましたが、今後は生き残るためにキャッシュフローや損益をより重視しなければなりません。生き残り戦略と成長戦略を併せて、迅速に行動することがロシア市場攻略のポイントです。これはほかの新興国でも同様です。
――ソニーは日本のメーカーの中でも早くからロシアに進出しています。
日比 ロシアでビジネスが始まったのはソビエト連邦(ソ連)時代からです。当時は配給制なので消費者に直接物の売り買いはできません。したがって、国家を相手にした入札ビジネスがメインで、業務用テレビカメラなど放送機器を提供していました。ロシアビジネスを語るとき、ソ連時代に入っていたブランドかどうかは実に重要です。国家が選んだブランドであれば、ロシアの消費者にとってブランドイメージは高く信頼されます。家電に関してはソニーやパナソニック、一眼レフカメラではニコンやキヤノンが選ばれていたため、日系ブランドのイメージは高いです。
1991年にソ連が崩壊してビジネス環境が一新され、一般的な物販が始まりました。そこからテレビやビデオデッキといったコンシューマー商品を提供するようになりました。91年から2007年までは、倉庫をロシア国外に置き、ディーラーが輸入するというビジネス形態でした。その背景には不透明かつ複雑な通関システム、会計システムがあったからです。もともと共産圏で国家が輸出入をすべて管理していたため、透明化する必要はなかったのです。外資企業が市場に参入する障壁は高く、ロシア政府につながった業者がビジネスの窓口になっていました。
そこで2007年にビジネスモデルを大きく変革しました。自主通関を実施し、現地法人を立て、ロシア国内で直接販売するような仕組みをつくりました。
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明治学院大学 経済学部准教授