「国家への強力なコミットメントなくしてロシア攻略は不可能」――ソニーの現地法人社長【前編】Executiveインタビュー(2/3 ページ)

» 2009年06月17日 08時30分 公開
[聞き手:伏見学,ITmedia]

ロシア国家との付き合い方とは

――2007年に自主通関に転換した意図は何でしょうか。

日比 法整備とビジネス上の戦略が大きなきっかけです。ロシアがWTO(世界貿易機関)への加盟を目指すなど、外資企業が商売できる環境が徐々に整ってきました。WTOに加盟するのであれば通関システムは国際標準であるべきですから。

 また、ロシアは国土が大きいので、オフショアビジネスには限界があります。これまでは国内に物を入れるだけで、その後の販売方法は代理店頼みでした。しかし、それではソニーの使命は伝わりませんし、ビジネスを拡大できません。そこで英断を下し、家電業界で初めて自主通関に踏み切ったのです。当初は賛否両論ありましたが、2年経って正解だったと感じています。今では同業他社も自主通関に切り換えています。


――ロシアでビジネスする上で、政府の介入があると聞くことがあります。

日比 よくも悪くもロシアは国家の統治力が強く、ビジネス自体も国家が主導しています。あまり行き過ぎると共産主義的になってしまい、逆に民主化だけを進めてしまうと無政府状態になってしまうので、資本主義の概念を取り入れつつバランスよく統治しています。国全体として発展するという意識が高いため、国家とうまく付き合うことがロシアで成功する鍵です。

 総論としては、ロシアは強い国家があるべきだと考えています。特に今回の経済危機を例に挙げても、コミットメントがほかの国とはまったく違います。外貨準備高も4907億ドル(2008年2月現在)で世界3位となり自信を持っています。国家の強い意思は国民に伝わっており、当社にとってもプラスに働いています。


――国家との付き合い方は重要ということですね。では、具体的に国家に対してどのようなアピールをしているのでしょうか。

日比 やはり最たる例は自主通関の開始です。自主通関するためには現地で法人をつくらなければならないし、あらゆる税金を払わなければなりません。これこそがロシアに対する正真正銘のコミットメントなのです。わたしたちはここまでやるので、国家は透明な通関システムと会計制度を構築するようにお願いします。ギブアンドテイクが重要です。

短命で豪快に生きる

――ロシアの顧客や消費者は日本と比べてどういった特徴がありますか。

日比 共産圏の時代は、皆で富を分配するシステムだったので差がなく貧しかったわけです。資本主義になってリッチに対して貪欲になりました。

 ロシアではVIPが社会的に認められています。(レストランやコンサートホールなど)どこへ行ってもVIPルームがあります。ロシア人はVIPや富裕層に対する憧れが強いです。

 消費意欲も非常に強く、高価なものや質の良いものを買いたいと考えています。堅実的に安いものを買うのではなく、ブランド品を身に付けて「わたしは金持ちなのだ」とアピールする傾向があります。

 ビジネスする上でロシア人は非常に分かりやすい相手で、ブームをつくると皆同じものを持ちます。リッチになると彼らは、車はメルセデス・ベンツ、時計はロレックス、PCはVAIOを買います。飛行機でビジネスクラスに乗ると全員VAIOを開いています。

 日本人と大きく違うのはお金に対する考え方です。ロシア人は共産体制の後に危機を経験しているので、将来に対して悲観的です。銀行もお金も信用していません。そのためか、ロシア人は宵越しのお金は持たず、すべて使い果たします。貯蓄志向の強い日本人との大きな違いです。

 ユニークなのは、ロシア人の平均寿命が女性の72歳に対し男性は59歳であることです。男性は短命で豪快に生きています。

 市場戦略としては、彼らの性格をうまく刺激して、憧れを持つような商品を出すことが重要です。


――ロシアの消費者を攻略するには、こちらも豪快に振舞わなければ受け入れられませんか。

日比 「郷に入っては郷に従え」です。どこの国でも同じですが、ロシアで成功するためには現地のルールに従うのが鉄則です。日本のルールを押し付けてもうまくいくはずはありません。ただし重要なのは、郷に従いつつもソニーの特色を出していくことで、譲れない部分は妥協してはいけません。妥協すると信用してもらえないからです。

 ロシアでのビジネスにおいては、「信頼」が大変重視されます。決まった案件については、ほぼ約束を果たしてくれます。逆に言えば、現地企業から信用を得ない限りはロシアで成功できません。そのためにも、現地のルールを踏襲するのが不可欠です。

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