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» 2009年08月24日 08時15分 公開

あの企業はなぜ大不況でも業績を伸ばしているのか生き残れない経営(2/2 ページ)

[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]
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一切売り込みをしない営業

 次に、営業手法で斬新なビジネスモデルを導入し成功した例を紹介する。ネッツトヨタ南国は、従業員100人、年商約36億円の新・中古車の販売業だが、近年では全国のトヨタ販売会社の中でお客様満足度No.1を連続達成、2002年11月には日本生産性本部による「日本経営品質賞」を受賞するなど活躍している。その背景には、既存の自動車ディーラーのビジネスモデルを大きく覆す、斬新なサービス、営業手法などの事業運営を実践しているからだ。

 同社の経営方針は「従業員満足の追求」である。同社サイトには「人間性尊重の精神に基づき、第一に従業員満足を追求する。そして、その従業員が求める私たちのあるべき姿として、お客様満足を追求し続ける」と理念が語られている。筆者が常々主張しているCS(Customer Satisfaction)の前にES(Employee Satisfaction)を、という考え方を実践しているわけである。

 斬新な営業手法とは何か。同社は店舗に商品としての車を置かず、顧客の憩いの場を提供する。広い喫茶室を設けてパンとコーヒーで250円という安いメニューを提供したり、48時間試乗を可能にするなどしているため、顧客で常時満員だそうだ。女子従業員のマナー教育も徹底している。車の誘導、接待方法など理屈だけでなく、大げさな身振り手振りの実演なども仕込む。営業マンにノルマはなく、訪問先では売り込みを一切しないで車の掃除をして帰って来る。これで売り上げがどんどん増えているのだ。

 ヤマトホームコンビニエンスも、運送業の新たなビジネスモデルを確立し成功した。3月の転勤シーズンに、全国宅配便網を生かした単身者向け引越しパックに注力し、2008年の取扱高で家族向けが同月比3%増に対し、単身者向けは23%増加したという。多くの企業が、今年コストを抑えるために単身赴任を増やしたことへの対応だ。

きっちり、どんどん

 新製品開発で不況を脱出せよと言ったところで、新製品がいきなり生まれるわけでもない。そうかと言って、マーケッティングなどによる科学的手法によって開発した製品が大ヒットにつながった例はほとんど見掛けない。上述の例から考えると、新製品開発に成功するには、経営哲学と泥臭い実行力が企業体質として染み付いていることが必要だ。

 1つ目は、ホンダのように独自の製品開発計画をきっちり立てなければならない。例えば某社では、市場の爆発的伸びが期待されてある自動車搭載機器を開発したが、ほとんどの部品を外部購入したため、付加価値がなく価格競争に耐えられず、早々に撤退した。計画をきっちり立てなかったからだ。

 ただし、計画を立てたからといって、時間が経つにつれて現実との差が開く。それに素早く、柔軟に対応しなければならない。某社では、ある映像機器を市場に出した時点では先行参入利得でトップシェアを獲得し高収益を得たが、その後の価格競争に対応できず、シェアが落ち、赤字に陥落したという惨めな例がある。「計画をきっちり立てる。現実の変化にどんどん手を打つ」は、ファーストリテイリング柳井社長の言でもある。

 2つ目に、その「きっちり、どんどん」を実行するために、現場の情報を生で吸い上げることが必要である。そこではコミュニケーションが極めて重要で、トップの現場へ入る姿勢も求められる。コミュニケーションは、ネッツトヨタ南国も示す通り、ESが企業文化として染み付けば、企業と市場間の、そして企業内の上下左右のコミュニケーションが自由に機能する。トップが現場へ入る必要性は、柳井社長が説く通りだ。

 「きっちり、しかもどんどん」の前提として、コミュニケーションとトップの現場があり、その結果として投資がある。3つ目は、開発投資を恐れずに行うことである。既存製品では収益確保が困難であるにもかかわらず、失敗を恐れて新製品投資を一切せず現実から目をそらし、企業を縮小させていくトップは現実に存在する。優れた企業はトップが恐れずに投資し、失敗を繰り返しながら成功しているのだ。

 これら3つの根底にあるのが、「真実は現場にあり」という考え方であることは容易に分かるはずだ。次回は、企業体質の強化について検討する。


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著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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