消費者は、顧客接点となる端末を意識して使い分けることはしません。興行主との間でも、どの端末を通じてチケットを販売するかを常に話し合っています。「ローソンネットショッピング」を提供していたアイ・コンビニエンスを合併したのは、消費者がチケット販売の端末を使い分ける時代に、その相乗効果を狙いたかったからです。
インターネットやモバイルでのチケット販売も同じ会社が受け付けることにより、ITとマーケティングとコンテンツの3つの基本機能を持つようになりました。コマース事業を取り入れたのは、チケット販売で培ったアーティスト関連の事務所やプロモーターなどの人脈を通じて、取り扱い商品やマーチャンダイジングを広めることができるからです。
この合併のおかげで、ローソンチケット会員に向けて、アイ・コンビニエンスの商品を推薦できるようなりました。ローソンチケットではアーティストでフックがかかっています。アーティストが新譜を出すときに、商品案内を同時に出すという動きができるようになりました。
チケットという商品で気を付けたいマーケティングの考え方は、アーティストと商品とのひも付けができても、アーティスト同士のひも付けは難しいということです。それは、アーティストに対するファンのスティッキネス(粘着度)が強すぎるからです。
マーケティングの歴史的な変遷は、まず、マスマーケティングから始まります。大量生産したものをマス流通を通して販売します。ここではマス広告を使うのが一番効率がよく、効率を最大化するマーケティングと言えるでしょう。しかし、消費者の嗜好が多様化するにつれ、ターゲティングメディアが発達し、少ロットの生産が定着してきました。顧客接点は、ダイレクトメールやEメールなどが使われ、CRM(顧客情報管理)というマーケティング手法で適切なオファリングによる個々の顧客との関係強化がされるようになりました。そこでは、アーティストと商品というようなクロスセルやアップセルも可能です。
最近、最も新しいマーケティングの考え方は、エンゲージメントマーケティングです。これは、消費者をファン化することにより商品との関係をよりさらに強化するものです。チケットの消費者はアーティストにこだわります。福山雅治さんは世界に一人しかいません。ファンのスティッキネスも強く、ほかのアーティストとのクロスセルはほとんど考えない方がよいでしょう。さらに、そんなファンにとっては、ある日の福山雅治さんのライブはやはり世界に1つなのです。つまり、場やアーティストの気分が違う1つ1つのライブがファンにとっては違う商品なのです。だから、メールマガジンや会報誌という顧客接点の使い方は、クロスセルではなく、ライブ情報をもれなく多くのファンの方々に提供することが大切です。
そのために、ファンクラブの運営をローソンエンターメディアに任せる動きも盛んです。コンサートやライブのチケットはまずファンクラブの会員を中心に販売され、その後一般のチケット購買者に販売します。そのファンに対してグッズの販売も行います。ファンクラブの運営をローソンエンターメディアが担えば、一連のオファリングがスムーズにいくという仕組みです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授