大前研一の辛口ニッポン応援談(後編)世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(5/5 ページ)

» 2009年11月16日 10時00分 公開
[構成:怒賀新也,ITmedia]
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移民受け入れも選択肢の1つ

 僕が経営者だったら少なくとも人材調達に関しては、日本を離れるね。あとは学校をドロップアウトして秋葉原あたりをうろついているようなガキをつれてくるか。今の日本のシステムにあきたらずに学校をドロップアウトしたヤツには、まだ可能性があるかな。もちろん全部が良いわけじゃないけど。学校で成績優秀、官僚にしてもいけるっていうような人間は会社では通用しないね。

 そいつらの知識ってのは基本的には全部足しても50円のメモリチップに入っちゃうよ。今の日本の人材育成システムでは世界に通用する人間は出てこない、これは深刻な問題だ。

 今のところ、残念ながら日本の将来を語って明るい話題はない。いずれ労働者が足りなくなるから移民も受け入れざるを得なくなるだろう。今の労働力を維持しようとしたら年間39万人が不足する。今はせいぜいインドネシア、タイ、フィリピンから介護士が年間200人。おまけに研修させて最後に日本語で国家試験を受けさせる。これは難しいといってとうとうインドネシアからは来なくなっちゃった。来ても研修だけ受けて国に帰っちゃうしね。

 将来、日本人は介護を受けるのに海外、タイやインドネシアあたりに行かなければならなくなるだろう。認知症患者1人に対して24時間を8時間交代で世話するために3人の介護士が必要なんだが、今の日本は1人の介護士が同時に5人の老人の世話をしている状態。火災にあった群馬の老人施設「静養ホームたまゆら」も20人の入居者に対し夜勤の介護士は1人だったというじゃないか。僕の住んでいる千代田区なんて特養「生き生きプラザ」なんて豪華版を作るから普通の老人ホームはない。

 戦後の日本はゼロからのスタートだった。当時の国民1人当たりGDPは300ドル。最貧国の1つだ。企業もこんな小さい国に閉じ込められていたら将来はないと米国に行ったわけ。今成長している国をみると、この40年前の日本と非常に似ているところがある。今の日本は豊かになり過ぎた。

 のんびりし過ぎて、一生懸命蓄積してきた資産を食い尽くしてしまった。足りなくなったら将来から借金してきてごまかしている。今年の赤字国債は50兆円を超えるという。累積ではGDPの200%。誰が返すのだろう? 1人当たり1000万円の借金だ。しかし、民主党も自民党と変わらない大判振る舞いをやっても、だれも怒らない。無感覚になってしまっている。大脳が盲腸化した、と僕は書いたんだけど、気持ち悪いくらい大脳が動かない人が増えているんだよね。

 欧米だったら20歳を過ぎれば親元から独立するのが当たり前だけど、日本では35歳を過ぎても両親と同居している人が35%もいるからね。ファストフード店でバイトをすれば、高校生だって月にだいたい4万2000円くらいになるんだけど、親元にいればこれで生活できるから、それ以上のことをやろうとしなくなる。

大学の認可を申請中

 親も国も面倒見過ぎなんじゃないかな。泣いたら勝ち、そんな国が強くなるはずない。厳しいことをいうようだが、最低限ここまではやらないと生きていけないよという恐怖感みたいなものを与えないと人間はちゃんとしないよ。もちろん機会を平等に与えることは必要だけど、結果は平等じゃないぞ!ってはっきり言わなくちゃね。「努力しない人間は救わない」という姿勢も必要なんじゃないかと思うね。「友愛」なんていま一番日本が言っちゃあいけない言葉だよ。

 今の若い人はハングリーの逆で、僕は「ミニマム世代」と呼んでいるんだけど、物欲がない。今、車が売れているのは補助金やポイントといったインセンティブに引かれ、得だと思うから売れているだけ。安い自働車を作れば売れるわけじゃない。でもそこを分かっている経営者が少ないんだ。ユーザーの勉強が足りないから基本的な変化が分かっていない。日本は大変な状況にある!という僕の話を聞いて危機感を持つことが大事なんだけど、みんな持たないんだよな。

 そういう考えもあるんですね、で終わり。「いくらでも良い国になる」と政策提言もしてるけど理解できる政治家がいない。役人なんか理解しようともしない。国民のことを考える人材がいないんだ。生活者の立場で考える、って民主党は言っていたけど、小沢(一郎)さんの言うことが優先、ってのが誰にも透けて見えるしね。卒業して14年経ったら官僚天下りではない、官僚とは思っていませんって元次官が平気で言うんだよね。

 むしろ正直に「仲良しの小沢さんに指名されて喜んで引き受けました」って言ってくれたら、「頼むぞ!」っていう気にもなるのにね。生活者の立場で考えたら……。

 まあ、こうして話してもあまり明るい話題がないけど、今、僕は大学の認可申請中でね。僕が考える教育改革を国に期待しても無理だと思うから、自分が思い描く大学を作り、そこから僕が思う理想の人間、世界のどこに出しても通用する人間を育てようと思っている。

 でもその前に文部科学省の認可が必要なんだよね。認可を取るためには、ぼくの考えているカリキュラムでは通らない、っていう究極のジレンマがあるんだ。だから柄にもなくお上に対して「はい、ご主人様」って言う練習をしてるんだ(談)

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