20年以上も前に海外進出を果たしたファミリーマートは着実に出店数を積み上げ、ついには昨年、日本発祥のコンビニとして初めて海外店舗数が国内店舗数を上回った。しかし一朝一夕に成し遂げられるものでは決してなかった。
日本のコンビニエンスストア業界において、他社に先駆けていち早く海外に目を向けていたのがファミリーマートだ。1988年の台湾進出に始まり、韓国、タイ、中国、米国、ベトナムと出店地域を拡大している。2009年8月には日本発祥のコンビニとして初めて海外店舗数が国内店舗数を上回り、昨年末時点で7950店舗を超えた。
ここまでの事業規模に育った背景には、いたずらに店舗を拡大するのではなく、1店舗ごとの地道な積み重ねがあってこそだ。同社の海外戦略を指揮する常務取締役 常務執行役員の井上史郎氏に海外で成功するための勘所を聞いた。
――ファミリーマートは、日本のコンビニエンスストアの中でも積極的にグローバル展開を推し進める戦略をとっています。
井上 これからの企業の成長を考えたときに、日本国内だけでビジネスをやり続けるのではなく、海外、特に経済成長や人口増加が著しいアジアに出て行くことが不可欠です。一方、国内では、今後人口が減少する中で効率的な利益中心の経営が求められます。異業種に参入してビジネスを拡大するという方法もありますが、ファミリーマートは海外に目を向けた成長路線を主軸に考えています。
海外でビジネスをする上で、リテール(一般消費者向けの小売)ならではの難しさもあります。その1つが貨幣価値の違いです。例えば、日本ではコーラの値段が100円以上しますが、ベトナムでは30円程度です。商品の製造方法や流通構造、人件費なども日本とは異なるので、30円で同じものが提供できるわけですが、単純に売り上げ数字だけで見ると3分の1になってしまいます。
海外でリテール事業を展開しても、日本の基準で考えると利益が少ないではないかという意見は少なくありません。しかし、その国や地域にとって当社がどれだけ貢献しているか、役割を果たしているかという視点で見れば、十分に価値がありますし、決して数字だけで比べるものではありません。これがグローバルビジネスの考え方なのです。
また、コンビニはインフラビジネスなので、ある程度規模が大きくならなければ急激な成長は見込めません。経験からいうと、軌道に乗るには10年ほどがかかります。1店舗あたりの坪数、客単価は小さいので、1つ1つ地道に積み重ねていく必要があります。1つの投入で大きく利益を上げるというモデルではありません。当社でも台湾での事業はようやく軌道に乗ってきましたが、中国や米国ではいまだ先行投資の段階です。
店舗拡大は一朝一夕でできるものではなく時間がかかります。コンビニでは弁当やサンドイッチなど「中食」と呼ばれる鮮度食品を扱っているため、そのための生産工場を用意する必要があります。仮に店が地域に1つしかなく、そのために工場で1日に売れる30食分だけを作っていれば、とても採算が合いません。少なくとも50店舗ほどのチェーン展開をしない限りは工場のコストすらまかなえません。店舗が増えないとビジネスが成り立たない点がコンビニの難しさであり、スーパーマーケットや雑貨用品店、衣料品店とは違う点でしょう。その代わり、店舗が広がると売り上げが一気に急増します。実はこれが楽しみでもあります。
――これまで多くの日本企業が中国に進出しては失敗して帰ってきました。ファミリーマートでもそうした経験はありますか。
井上 もちろん閉鎖した店舗はあります。当社では新しい店作りはあくまで先行投資で、1年かけて収益を上げてから次の店を作るというのが戦略の構図です。ですから、仮に1年間で100店舗作ったとなると、一気に赤字店舗が100店できたことと同じわけです。ただし、先ほど述べたように数を増やさないと利益が伸びない構造ですので、規模の拡大と収益の追求のバランスをうまくとった事業運営が肝要なのです。
中国市場の難しさについては、外資規制も悩みの種です。以前、タバコの販売が突然禁止になったことがあります。中国のタバコ消費量は日本の数倍あるほど産業規模が大きいため、国内企業の優遇策が働いたわけです。ほかにも中国では突然規制が入ります。しかし、これは外資企業にとっては仕方ないことですし、それをどうやって次のビジネスで補填するかを考えることの方が重要です。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授