プリウスは本当に“不具合”なのか――クルマのソフトウェア化を考える神尾寿の時事日想・特別編(3/4 ページ)

» 2010年02月25日 08時00分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

「ブレーキが効きにくくなった」とドライバーが感じる理由

 プリウスなど最新THS搭載車では、「回生ブレーキ」と「電動式油圧ブレーキ」をメインで使用していると書いた。しかし、プリウスなど最新型THSでは、ABSが作動すると油圧ブレーキの制御を電動式ポンプから機械式に切り替える制御を行う仕様になっていた。これは「(ABS作動時に)電動ポンプを使った場合、ノイズや振動が発生し、従来のモデルではそうした部分に対し不満の声があったため」(トヨタ自動車)で、乗り心地をよくするために導入した最新技術だという。

 この切り替え制御の何が問題なのか。実は電動ポンプ式の油圧ブレーキでは、軽い力でブレーキペダルを踏み込んだ場合、安全性を考慮して、電動ポンプが発生する油圧を機械式油圧ブレーキを使用した場合よりも“少し高め”に設定していたという。つまり、機械式油圧ブレーキで同じ量のブレーキを踏んだ場合よりも、“ブレーキがよく効く”ように設定されていたのだ。これは通常の「回生ブレーキと電動式油圧ブレーキ」のみを使う場合ではまったく問題にならない制御だが、上述のようにABSが作動すると、油圧ブレーキの制御が電動式から機械式に切り替わる。そうするとどうなるか。電動ポンプで“やや強め”に設定されていた油圧が、機械式油圧ブレーキだと“本来の圧力”に切り替わるため、ドライバーはブレーキが急に効きにくくなってしまったような感触を受けるのだ。なお、繰り返しになるが、この場合も機械式油圧ブレーキは作動しているため、ブレーキペダルをさらに踏み込めば油圧が高くなり、より強いブレーキ力が発生する。

 なお、今回のリコール対策として、ABSの制御ソフトウェアを改修すると報じられているが、その内容は「ABS作動時に機械式油圧ブレーキに切り替えるシステムを廃止し、ABS作動時も電動式油圧ブレーキを使用する設定に変更する」というものだ。

安全のためにクルマはオンライン化する

 今回、プリウスで起きた不具合は、その発生原理や詳細な内容を知ってしまえば、構造的な欠陥や大きなトラブルとは言えない。特定の条件下でドライバーに違和感や不安感を感じさせてしまったのはトヨタの不手際だが、プリウスはじめトヨタのハイブリッドカーに致命的な問題があったわけではないのだ。

トヨタ「SAI(サイ)G“AS Package”」
レクサス「HS250h“version L”」(オプション装着車)

 実際、プリウスなど今回リコール対象になった4車種は保安基準に合致している。リコールの届け出を受けた国土交通省側でも、「プリウスの不具合が(保安基準は満たしているのに)法令によるリコール扱いにしてもいいものか」という議論があったと聞く。また、トヨタ以外に目を向ければ、類似のABS作動時の違和感があるとされた米フォード・モーターのハイブリッドカーは、リコールをせずに自主的な「ソフトウェアアップデート」を行うと発表している。プリウスのリコール発表時には、一部に「トヨタの対応が遅い」という声も上がったが、そもそも今回プリウスで起きた現象は、リコール対象にするかどうかの判断が難しい“ソフトウェアにおける仕様上の問題”によるものだったのだ。

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