企業戦略=システムと提案してしまうのは、システムベンダーがソリューションありきの思考に縛られていることに最大の原因があると考えています。
本連載第1回の「変化する情報システムのパラダイム」で述べましたが、1990年代後半からERPをはじめとしたソフトウェアパッケージを活用したシステム構築が主流になってきました。そのため、最も業務に合いそうなシステムを探して導入することが良い提案であるという考え方が業界に広がってしまいました。
このようなソリューションベースの考えにおける設計の検討や作業では、企業のオペレーションとパッケージの差を発見すること、つまり「FIT & GAP分析」がオペレーション設計であるとの傾向が強くなってきたように考えられます。もちろんこの考え方は勘違いです。
また、企業側、特に情報システム部門もユーザー部門との面倒な調整や説得を避けるために「グローバルで主流のパッケージを利用することが競争に打ち勝つために必要である」といった理由を盾に、オペレーションを考えることをしなくなっていったといえるでしょう。そして「システムを導入すること」が目的になっていき、ソリューションありきの思考が助長されていきました。
システムを活用してオペレーションを改革することで、また、競争戦略を実現することによって企業価値の向上を目指すわけなのですが、このような視点を持つことができなかったのです。
システム導入に向けたオペレーション設計は、実は非常に難しいことです。新しいオペレーションを設計するに当たって、クライアントの現状のオペレーションを的確に理解することは出発点です。ある企業と数十年という長年のつきあいがあるシステムベンダーのエンジニアの方でも、システムの処理やロジックは語れても、オペレーションをきちんと語れる方は少ないのではないでしょうか。
さらにシステム処理が入っていないオペレーションについては、皆目見当もつかないという方が大半ではないかと思います。
オペレーションを理解するための近道はなく、クライアントとの度重なるコミュニケーションはもちろんのこと、現場・現物・現実を徹底的に見て回るなど、地道な努力が必要です。
例えばわれわれが企業再生のコンサルティングを行う場合、生産現場である工場や販売拠点、本社の管理部門や企画部門などに実際に足を運び、必要なら早朝から深夜まで、徹底的に張り付くことも厭いません。
そして自らの目で現場では何が起きているかをつぶさに観察していきます。また、実際にオペレーションを体験させていただくこともありますし、製品を分解してみるといったことや、クライアントの顧客や仕入先とのヒアリング、さらには全国にある販売拠点を覆面調査で何十カ所も回ったり、修理工場にわざと製品を壊して持ちこんでみたり、ありとあらゆることからオペレーションをつかんでいきます。
戦略コンサルタントにもかかわらず、なぜこのように現場のオペレーションを理解することにエネルギーを費やすのか疑問を持たれる方もいるかもしれません。
それは競争戦略の策定にこそ、ビジネスのリアルを理解していることが不可欠であることを身にしみて理解しているからです。そしてオペレーションが機能しなければ競争戦略が実現されていないことも分かっています。
だからこそ、オペレーションを構成する要素すべてを感度をあげて、それらのリアルを理解することを強く意識しているのです。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授