システムベンダーの営業力についてはさまざまな手法が提言されましたが、「価値ベースの提案」はあまり機能していないようだ。
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金融業界における活発なシステム投資の終了とリーマンショックによる経済の不透明さにより、2009年以降多くのシステムベンダーが営業で苦戦する状況が続いています。
システムベンダーの営業力、特に提案力の強化については行動様式から情報共有の仕組みなど、さまざまな手法が提言され、一定の効果を生み出したものもあります。ただし、ここ数年で提唱されてきた「価値ベースの提案」については、ほとんど効果が出ていないように思われます。
今回は「価値ベースの提案」について考えてみることにします。
システム構築の価格は、システムの設計や開発に必要となる工数をベースに見積られ提案されるのが一般的です。「設計工程にはエンジニアが5人で6カ月の30人月が必要ですので、(エンジニアの単価を乗じて)4000万円となります」といった形です。
価値ベースの提案では「システムが企業にもたらす価値」をベースに価格設定をし、提案していくという考え方です。ここでの価値とは、コスト削減や売り上げ拡大、資産効率化などのシステム導入により、企業が得られる効果が中心です。
ここでの価格設定は、構築したシステムがどれだけ企業にとって価値を生み出すものであるかが基準になります。システムベンダー側の内部管理用には人月による見積もりや実績管理は必要ですが、それが価格設定の最重要事項になることはありません。
よってシステムベンダーにとっては収益性を大きく高める可能性が存在しています。また、システムが企業にもたらす価値を明確に訴求した提案は、大きな競争優位になることは言うまでもありません。
われわれは多くのクライアントと接する際に、クライアントがシステムベンダーから受け取った提案書を拝見する機会が多いのですが、価値を効果的に訴求している提案書を見かけることは多くありません。
例えば「重要なのは受注に結びつく顧客を見極め、密接な関係を作る、顧客主体型の経営です。弊社のCRMソリューションを導入すれば、顧客管理の高度化と同時に部門間の情報連携が図れるようになり、売り上げの拡大に大きく貢献します」といった具合です。このような提案を見る度に違和感を覚えるのです。
あたかもシステムのみで競争戦略が実現でき、価値を生み出せると唱っていることが違和感の最大の原因です。
ビジョンから企業の戦略を組み立てて、それの実現手段としてオペレーションが位置付けられますが、システムとは、あくまでオペレーションの一構成要素にすぎないのです。(図1)
「CIOは必要か(後編)」でも説明していますが、システムはあくまでもオペレーションを構成する1つの要素であり、システムでオペレーションが規定されてくるわけではありません。
システムベンダーの提案書を見ていると、オペレーションの戦略や設計を飛ばして、いきなりシステムと企業戦略が直結しているかのような、そしてシステムの導入が価値を生み出すといった記述を見ることが多いのです。そこでは、オペレーションが漏れてしまっているのです。
特に、システムに直接かかわらない部署のオペレーションや、システムを利用するユーザーの能力まで考慮した提案には、ほとんどのシステムベンダーが考えるに至っていないのではないでしょうか。
このためシステムベンダーの提案書がいくら価値を語っていても、企業としてはなかなか価値の実現可能性というものを感じられませんし、最悪の場合はオペレーションをシステムに合わせようとして「本来は必要のないコスト」を払わざるを得ないといった事態も発生します。
「オペレーションも考慮した提案」も少なくはありません。新システムを利用した新業務フローが記述されている提案書を拝見することもないわけではありません。
ただし、ここでも記述されているのはシステムを利用するオペレーションに限定されていることがほとんどです。それ故に、違和感は払拭されることがありません。もう少し正確に言えば、システムが利用されるオペレーションだけで、競争戦略の実現を語っていることに違和感を覚えるということです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授