このような状況を打破し、ビジネスへの貢献度の高い情報システム部門とその人材育成への取り組みについて紹介します。
事例1: 業務貢献への動機付け
A社ではCIOが情報システム部門の役割を「業務品質を高めること」と定め、世界レベルで通用する業務プロセスへの刷新に取り組みました。そのために従来はどうしても受け身な仕事の仕方であったところを、品質管理システム刷新プロジェクトの企画・推進を通して、ユーザー部門とともに自社の品質管理業務のあるべき姿を徹底的に議論し、考えさせ、事業部門横断の品質管理システムの構築と品質管理業務のレベルアップを実現させました。このことを通じて、情報システム部員の業務貢献への動機づけがされ、育成につながっています。
また、海外グローバル企業の部門買収を通じて、グローバル企業の業務オペレーションや情報システムの最適化への取り組みの実態を学び、国内中心思考から、グローバル最適な業務プロセスと情報システムの企画能力の向上に注力しています。
事例2:全社視点の醸成
B社では、自社のビジネスの売り上げ比率が国内のそれを大きく上回る現状を踏まえ、ビジネスモデル変革に合わせた情報システム部門変革に取り組んでいます。異なる事業特性をもつ複数の事業部門を持つB社では、他の同様な事情を持つ企業と同じように、従来、情報システムの構築は事業部門ごとに、縦割りで実施してきています。さらに世界各地の拠点でも会計など一部を除き個別に構築してきたため、維持すべき情報システム資産は膨れ上がる一方で、ITコストの増大だけでなく、グローバル最適な業務オペレーションが求められる経営環境への対応が困難になってきました。
このような状況から、グローバルレベルでの業務プロセス刷新プロジェクトが開始されました。
その際に活用しているフレームワークがEA(Enterprise Architecture)です。EAでは企業全体のビジネスプロセスと業務アプリケーション、データ、IT基盤とそれらのガバナンスについて目指す姿と現状を描きます。このフレームワークを活用して、自社のビジネス変革に応じて最適なビジネスプロセスと情報システムの構築をめざし、設計・開発、生産、販売、経営管理といった業務領域ごとに業務プロセスの専門家(プロセスアーキテクト)をCIOが任命し、ビジネスプロセスの将来像をユーザー部門と合意する活動を行っています。この取り組みは既に5年に及んでいますが、全社視点でビジネスプロセスと情報システムのアーキテクチャーに精通した人材の育成につながっています。
事例3:人材育成の仕組み整備
C社では、CIOが今後の自社グループのビジネスモデルの変革に合わせて情報システム部門変革の青写真を描き、情報システム部門の所属する社員全員がプロフェッショナルとして、市場価値のある、社外でも活躍できる人材となることを目指した仕組み作りにリーダーシップを発揮しました。
具体的には、プロフェッショナルとしての職種ごとの人材像(役割、スキルとそのレベル、行動特性など)の定義とともに業績目標管理制度との連動、プロフェッショナル認定制度(申請、認定プロセス、審査委員会、プロフェッションオーナーの決定など)やさまざまなインセンティブ(報償)、研修体系の整備、オフィス環境の見直しなど具体的な効果を狙った仕組みの整備を行いました。
この仕組みの計画・整備は、大半は社内の有識者によって実施しましたが、コンサルタントやアーキテクトのように社内にお手本(ロールモデル)となる人材が不足している職種の定義や育成方法、これまで経験していないプロフェッショナル認定制度の設計などは外部コンサルタントの支援を得ることで、変革のスピードアップを図りました。現在では多くの情報システム部門の社員が自分の市場価値を意識して付加価値の高い業務ができるよう、スキル向上に取り組んでいます。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授