アイティメディアのセミナールームにおいて、第1回『スマートな経営のためのラウンドテーブル』が開催された。良品計画 会長の松井忠三氏が講演。「無印良品」のブランド戦略と海外展開について話した。
6月10日、大手町のアイティメディアのセミナールームにおいて、『スマートな経営のためのラウンドテーブル』の第1回が開催された。良品計画 会長の松井忠三氏が講演し、「無印良品」のブランド戦略と海外展開について話した。成功を収め、順調に成長を続けてきたように見える同社の経営も、決して平坦な道のりではなかったことを率直に語った。
講演に先立って、日本アイ・ビー・エムの専務執行役員 椎木茂氏が挨拶に立った。椎木氏は2007年と2010年のデータを示しながら、わずか3年の間にアジアの拠点としても、研究開発の拠点としても、日本を重視する企業が急減していることを紹介し、その地位を落としている日本の現状が示された。また、次のように加えた。
「日本企業の投資は増えているが、投資先のほとんどは海外。日本に投資している日本企業はほとんどありません。つまり、海外調達、海外生産、海外雇用、海外消費という構造によって、企業は成長しても国内に雇用は生まれないという状況です」(椎木氏)
「このままでは、企業は成長しても国は滅びる。ぜひ、松井氏の講演から何かヒントを見つけてほしい」と語った。
続いて登壇した松井氏は、良品計画のプロフィールおよび無印良品の歴史を簡単に振り返るところから講演を開始した。
無印良品は、もともと西友のプライベートブランドとして1980年にスタート。当時は、高度成長が終わりを告げ、消費者の消費行動が大きく変化した時代である。それに伴って、流通各社もビジネスモデルの再構築に迫られ、さまざまな試行錯誤を繰り返していた。
「そうした中で、西友は“わけあって安い”というコンセプトを打ち出し、素材の見直し、工程の点検、包装の簡略化という3つ方向で無印良品というブランドを立ち上げたのです」(松井氏)
ブランドは順調に成長。1989年には西友から独立し、良品計画が設立される。1991年には海外進出、1995年には株式公開と順調に成長を続け、1999年には売上高が1000億円を突破。設立後の10年間は、まさに順風満帆の成長を続けた。
ところが2000年、初の減益を経験する。わずか十数パーセントの減益だったが、その影響は甚大であったと、松井氏は次のように語った。
「99年の期末に1万7350円あった株価は、00年の期末には2750円にまで落ち込みました。実に、4100億円程度の時価総額が失われた計算になります。マスコミも“無印の時代は終わった”と騒ぎ立て、厳しい状況に追い込まれました。我々自身の慢心やおごり、急速に進む大企業病、焦りによって繰り返される短期的な対策、領域を急拡大したことによるブランドの弱体化など、原因はいろいろ考えられると思います。こうした中、2001年、社長に就任したわたしが、立て直しの任につくこととなったのです」(松井氏)
2001〜2002年にかけては、人事の刷新、海外店のリストラ、不良在庫の処理、不採算店の閉鎖・縮小、品質の改善など、さまざまな対策を実施した。
「不良在庫となった売値で100億円に相当する衣料品を焼却処分したこともありました。つらい経験でした」(松井氏)
「進化と実行」というテーマを掲げ、経営の改革にも着手。「計画5%、実行95%」という考え方で、ブランドコンセプトを見直した。とにかく実行の部分が重要であるというのが松井氏の考えだ。商品開発、販売方法の刷新などの計画を次々と実行に移していった。
「設立当初の“わけあって安い”というコンセプトも、時代の変化に合わせて『WORLD MUJI』『FOUND MUJI』というコンセプトに進化させました。世界の一流デザイナーと提携し、それに合わせて組織を改変するなど、商品開発の方法も一新しました。また、販売の方法も変えました。例えば、新店舗の出店基準を作成し、物件ごとに基準と照らし合わせることで、20%にとどまっていた出店の成功率を、2004年度には90%にまで高めることに成功しました」(松井氏)
発注業務の効率化を目指して自動発注システムも導入した。基準在庫を下回ったら自動的に発注が行われるシンプルなシステムに刷新することで、在庫の修正作業は50%から10%に低減したという。
こうした取り組みが実を結び、業績はV字型で回復。いったんは撤退した海外にも再び積極的に出店し、2010年度はフィリピン、ポーランド、ポルトガル、イスラエルに新規出店を予定している。2011年度の売上高は2000億円に迫る勢いで、そのうち海外(アジア)が占める割合は20%と、まさに世界的なグローバル企業への階段を一歩一歩上っているのが、現在の良品計画と言えるだろう。
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早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授