自虐的なメタファー「ガラパゴス化」を考える戦略コンサルタントの視点(1/3 ページ)

ガラパゴス化とは日本企業の製品やサービスが特殊な発展を遂げたがゆえに、海外では通用していないという考え方です。今回はガラパゴス化について検討した上で、日本のIT産業発展へのヒントを考えてみることにします。

» 2010年07月06日 08時50分 公開
[くわ原 隆志(ローランド・ベルガー),ITmedia]

 昨今、日本の産業をガラパゴス化と揶揄した表現が見受けられます。絶海の孤島であるガラパゴス諸島の動植物は独自の進化を遂げてきたため、外来種からの攻撃には極端に弱いと言われます。ガラパゴス化とは、日本企業の製品やサービスが特殊な発展を遂げたがゆえに、海外では通用していない、しないとみなし、ガラパゴス諸島に生息する独自の動植物に喩えた言葉です。

 ガラパゴス化を主張する人々のメッセージは、このままでは日本の産業は外来種である外国企業に駆逐されてしまう、日本の産業はグローバル化できないというものです。その証左として、携帯電話での多過ぎる機能や、非接触型ICカードなどがしばしば挙げられています。

 確かに国際標準や消費者のニーズと異なっていることに対して不安を持つことは理解できますが、過度に日本の特殊性をネガティブに評価することも健全とはいえません。

 今回はガラパゴス化について検討したうえで、日本のIT産業発展へのヒントを考えてみることにします。

日本はガラパゴス化しているのか

 日本企業が提供するさまざまな製品やサービスが非常に高機能・高品質であり、海外市場のニーズと大きく異なることは確かです。この高機能・高品質はGDPで世界2位という大きな日本市場の中で、各企業が日本人のニーズに応えてきた成果といえるでしょう。

 決して日本が鎖国をしてきたわけでも、強力な保護主義をとってきたためでもありません。この視点から捉えると、日本を絶海の孤島に例えること自体に疑問が生まれます。

 しかし、ガラパゴス化を主張する論者は携帯電話において、ノキアやサムスンなどの海外メーカーが世界シェアの多くを占め、日本企業が海外の携帯電話市場から撤退していることを例に、ガラパゴス化が問題であると述べています。

 また、デジタルテレビ放送の方式が海外と異なることや、過去のPC-9800がWindowsに置き換えられた事例を基に、日本の製品やサービス全般において同様の現象が存在していると述べています。

 これまでの日本企業が残してきた高機能・高品質の成果を「世界のニーズからかけ離れてしまった機能やサービス」とし問題視しています。本当にそうなのでしょうか。

高機能・高品質が悪いのか?

 確かにいき過ぎた高機能・高品質は事実でしょうし、大きな日本市場に過度にフォーカスし過ぎてきた点も反省は必要でしょう。しかし日本人の高い美意識やニーズによって磨き上げられてきた製品やサービスを正当に評価することも必要だと我々は考えます。

 日本のもの作りの代表例である自動車の場合を考えてみます。日本メーカーは海外で販売が広がる以前より、限られたエンジンスペースを最大限活用したさまざまな機能の実現や、車両の安全性や燃費、乗り心地といった品質にこだわってきました。このことが、日本自動車メーカーへの信頼を育み、現地メーカーとも伍するブランドを確立するに要因になっています。

 サービスでも高品質はいくらでも挙げられます。例えば先日発売されたiPadの配送はヤマト運輸が担当しています。発売に際して配送をする際、一台も遅延せずに指定日に届いたため、米Appleの担当上級副社長より「米国では考えられない信じがたいサービス」と絶賛されています。

 「文化」が受容されることさえあります。日本の寿司は、30年前には生魚を食べる習慣のない海外の文化からはまったく信じられない食事でした。しかし、今では米国に限らず世界中で寿司は人気の食として定着しています。

 高機能・高品質または日本独特だからといって海外で受け入れられないということはないということです。むしろ、日本の品質を世界が知ることで、やがて彼らのニーズが日本人に追いついて来るとも言えるのではないでしょうか。

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