もちろんこれは推察の域を出ていません。ただ、発表前後での視聴者の「ご意見」の劇的な変化から考えると、相応の説得力があります。逆に見れば、単純な合計の多寡での意思決定が適正か否かについても、その議論は推察の域を出ません。
本来ならば、「ご意見」を寄せられた視聴者を次のような軸で分類した上で、中継の賛否の「ご意見」を分析し中継の是非の意思決定をすることが必要だったでしょう。
もちろんこれは理想論です。
今回のNHKへのご意見は、コールセンターやファックスおよびホームページからのメールで寄せられました。両者とも年齢と性別は必須提示情報でありますが、匿名情報が中心となっていたと考えられます。匿名情報ではこのような分類は、非常に難しい、ほとんど不可能と考えた方がいいでしょう。
そして匿名の場合には、愉快犯とでもいうべき集団が存在してしまうことは残念ながら避けられません。
顧客の声に向き合いビジネスの改善に役立てていくことは大事です。しかし、注意すべきは顧客の声の質が適正か否かということです。「お客様の声は100%正しいのか、常にお客様の声に向き合い対応すべきなのか」ということです。
具体的なサービスの改善要求や、商品の取り扱い店舗の拡大の依頼などに見られるように、匿名であったにしても顧客の声への対応の検討がかなり有効な業種があるのは事実です。
ただ、今回のケースのように、「ご意見」への対応が自社のメリットか否かの判断が難しい場合には、なおのこそ顧客の声の質や背景を考察することが重要となってきます。匿名の「ご意見」に必要以上振り回されることなく、純粋に意思決定(この場合には中継の実施・中止)が自社に与える経営的なインパクトやリスクを考慮したうえで、意思決定を下すことも必要となってきます。
戦略的に「顧客の声」を無視することも、経営的な判断として必要となってくるということです
このように匿名を中心とした情報は「質」の面での問題点が存在するため、ビジネスでの活用にはリスクが残ります。ただ、この点がまるで問題となっていないかのような世界があります。インターネットの世界です。
不特定多数の人々の知恵や知識がインターネットを介して発信・集積され、新しいアイデアやコンセプトが生み出されるという「集合知」という考えが、インターネットのエバンジェリスト(伝道師)たちから唱えられて久しいです。
「Twitterは企業のマーケティングを変えるか」では、「集合知」が実はかなり困難であり、実は「集合愚」となってしまうことが多いこと、「集合知」は「群衆の善意」を前提としていること、「群衆の善意」を素朴に信じて企業活動における意思決定などを行うことは、リスクが高すぎることなどを考えました。
不特定多数からの情報が発信される(匿名での発信はこの最たるものです)場合、情報の質の適正さは担保されないというインターネットの本質的な問題は、いまだにエバンジェリストたちも解決策が見い出せていないのが実情です。今後も決定的な解決策は見いだしにくいでしょう。
エバンジェリストたちは、インターネットの利用法や未来を語ることで生計をたてているエンジニア、ネットビジネスの従事者、評論家、ジャーナリストおよびそれを支持する集団です。このようなネガティブな事実を認めた上での解決策を、エバンジェリストたちに期待するのは今後も難しいのかもしれません。人間は、自らの生計の糧を自ら否定することは、なかなかできないものです
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授