大相撲中継の中止から、お客様の「ご意見」とネットの限界、超克への期待を思う戦略コンサルタントの視点(1/3 ページ)

NHKが大相撲名古屋場所の生中継をしないと発表しました。視聴者の意見が中止決定の理由として報道されています。今回はこの「視聴者から寄せられたご意見」から、企業にとってのお客様の声について考えてみることにします。

» 2010年07月13日 14時00分 公開
[大野 隆司(ローランド・ベルガー),ITmedia]

 7月6日、NHKが大相撲名古屋場所の生中継をしないと発表しました。テレビで57年、ラジオで82年におよぶ歴史を持つ生中継の中止は、非常に大きな意思決定であったと思われます。一連の賭博問題に関する相撲協会の改革の道筋の不透明さと同時に、視聴者から寄せられた「中継すべきではない」とのご意見が、中止決定の理由として報道されています。

 今回はこの「視聴者から寄せられたご意見」をもとに、企業にとってのお客様の声について考えてみることにします。

中継中止までの経緯

 今回、視聴者から寄せられたご意見(以下、ご意見)では、中継中止発表の前後で、賛否が入れ替わるという現象が目につきます。

 中止か否かの意思決定前では、NHKに寄せられた視聴者からの「ご意見」はなんと1万2600件以上だったそうです。「ご意見」を寄せる視聴者の多さには正直驚きました。

 ちなみに内訳は、中継賛成が約1960件(14%)であったのに対し、中継反対は9240件(66%)と4倍以上に上りました。これが中継中止発表後は、中継賛成が約2050件(47%)、中継反対が1250件(28%)と逆転しました(数字は7月8日0時までのもの)。

 発表前後の賛否を合算しても、4010件と1万490件になり、中継反対の「ご意見」が2倍以上あることになります。しかし、単純な数の多寡では納得しにくいものを感じるのが正直なところでしょう。

ロイヤルカスタマーへの裏切り?

 多くの業種では全ての顧客の声を把握するのは難しいので、サンプリングなどの手法を用いるわけですが、そこでのポイントは「偏りを無くす」ということです。

 今回の発表前後での賛否の逆転を見るに、前と後での視聴者群に大きな差があるように思えてなりません。

 発表前(意思決定前)の「ご意見」は、「日本相撲強化そのものへの社会的正義の遂行」の意思を強くお持ちの方からの「ご意見」や「歴史ある相撲中継が中止になったら面白いのでは?」といった愉快犯的なものなど、相撲中継の視聴者以外からのものが多かったのかもしれません。

 これに対して発表後は、本当に中止の決定がされたことに驚いた相撲中継の視聴者からの中継実施を強く望んだ「ご意見」が多かったとも思えます。

 NHKにとっては中継中止の方が、安全策だったかもしれません。しかし、今回の意思決定は相撲中継を視聴している、一般企業で言うところのロイヤルカスタマーを裏切ったと言う見方もできるでしょう。

 社会インフラであり、規制産業のテレビ業界に属するNHKと比べると、一般企業においては、ロイヤルカスタマーの喪失のリスクも考慮した上での意思決定ははるかに困難でしょう。

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