A社は技術力に優れ、それが売りでもあった。それが利益至上主義による災いに油を注ぐことになった。A社は、FAX、携帯端末、小型記憶装置など、ほとんどの製品で日本における先駆者だった。しかし、高シェアを取り、高収益をもたらした製品は1つもない。ただ、携帯端末で国内のOEM、小型記憶装置で米国のOEMを受注し、一時売り上げ急増と高収益で潤ったことはあるが、それらのOEMを失注したことがすべての終わりを意味した。自社ブランド製品が少ないということは、市場基盤がないということだからだ。
トップは機会あるごとに口にした「なぜいつも最初に開発しながら売れないんだ」「売り方を考えて製品開発しろ」「ハードだけでなく、ソフトも考えろ」「研究所は、売ることを考えて技術開発しろ」、しかし、そんな思い付きの口先介入だけで事態が好転するほど甘くない。
A社は、「顧客創造」に人も金もかけなかった。例えば小型記憶装置について事業部販売責任者が、全国要所にアンテナショップやショールーム兼商談室を設置すること、顧客向けサンプルを何十台か用意すること、マーケティングを試みることなどへの投資を提案したが、本社経理から一切拒否された。ドラッカーは、マネジメントとは企業の方向付けを行い、ミッションを決め、その上で目標を定めて「資源を動員し」、成果に責任を持つこととしているが、A社トップは利益最大化にのみ関心があり、「顧客創造」のための「資源の動員」ができなかったわけだ。
今政府は日本経済活性化の一手段として、海外からの観光誘致を挙げている。しかし、今まで筆者が経験した国内外の観光旅行でのいくつもの顧客無視の対応に、果たして旅行業者各社は観光誘致に満足に対応できるのか疑問を抱かざるを得ない。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授