ドラッカーの言葉「企業の目的は顧客創造」を実践しない者は滅びる生き残れない経営(1/3 ページ)

ドラッカーは、マネジメントとは企業の方向付けを行い、ミッションを決め、その上で目標を定めて「資源を動員し」、成果に責任を持つこととしたが、うまく実践できない企業も多い。

» 2010年08月03日 08時30分 公開
[増岡直二郎,ITmedia]

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 ニトリ、ユニクロを展開するファーストリテイリング、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド、Apple、Dellなど、超優良企業の成功ストーリーが語られている。一方、日本を代表する企業で失敗に悩む身近なケースもある。一体、どこに違いがあるのか。

 奇しくも「企業の目的は顧客創造である」と喝破したドラッカーの経営理論に焦点を当て、若干の分析を試みる。

 ニトリはローコストオペレーションで成り立っているという認識を持たれているが、安さだけで勝負を挑んでいるわけではない。基本的に、日本人が潜在意識として持っている欧米並みの豊かな住生活という顧客欲求を実現させる、という経営理念がある。そして家具は購買頻度が低いことを前提に、購買頻度の高いホームファッション商品も取り揃える。

 ユニクロの代名詞とも言われる「フリース」から、薄い生地で軽量ながら発熱・保温・抗菌・保湿などの機能を備えた肌着「ヒートテック」、Tシャツ風にはブラジャーは要らないという顧客要求に応えたブラカップ内蔵型キャミソール「ブラトップ」、洗濯機で洗えるセーターが欲しいという要求に応えた「マシンウオッシャブルニット」など次々と出すヒット商品は、顧客ニーズに徹底的に応えようとする姿勢と革新的技術に裏打ちされている。

 自前の工場を持たず、マーケティングとイノベーションに特化して顧客を創り出すという方針である。顧客要求に応えて顧客満足度を上げるという姿勢の典型的な例として、1995年のことだが、品質チェックが行き届かないケースが増えたことに対する対策として、ユニクロへのクレーム提出者に1人100万円を提供したと言われる有名な逸話がある。

 東京ディズニーリゾートは、1983年の東京ディズニーランド開園以来、他のテーマパークを全く寄せ付けない。毎年の入園者が1000万人以上で2位の長崎ハウステンポスと比較して約4倍、売上高も4倍近くだ。その経営理念は有名だが、まさに顧客を創り出すことにある。

 第1に非日常的空間の演出、第2に常に新規アトラクションを導入するなどの工夫を凝らしている。毎年100億円も投資し、顧客を決して飽きさせない。第3に従業員の良質なサービスなど、高レベルなサービスは定評がある。第4は園内の清潔さ、その他に顧客を囲い込んだオリジナル商品、飲食店の充実などがある。すべてが高価すぎるという不満を持ちながら、顧客は頻繁に訪問を繰り返す。

 米AppleのiPadが絶好調で、品不足のため米国以外の発売が1カ月以上も延期され、中国では既にコピーが出始めたと言われる。iPad は操作性に優れ、画面も美しく、デザインも魅力的で、手軽に持ち運びができる。多くのコンテンツが後を追う。一説によると、iPad は顧客の要求を取り入れたのではなく、顧客を作り出すという発想から設計されているとも言われる。

 Dellの成功は「良い物を作れば売れる」という技術志向のコンピュータ業界で、顧客ニーズに合わせた革新的サービスを考え出した点にある。「マス・カスタマイゼーション」と言われる方法は、顧客個々の要求スペックに合わせた製品を、大量生産価格で供給するものだ。実際に注文してみると、それほど広い選択肢があるわけではないが、顧客は要求スペックどおりの「注文生産」に応じてくれたという満足感を得られる。もう1つの特長は、中間業者を介在させないインターネットや電話による直販であるが、これが低価格の実現や顧客満足にもつながっている。

 しかし、これらのDellオリジナルだった特徴に同業他社が既に追随しており、新鮮味は薄れている。今やDellに他社より優れた特徴を問い合わせても、ソフトや周辺機器の有料サポートサービスくらいしか出てこない。幹部も「ご指摘どおり、敵は他社ではなく自分自身だ」と言ってはばからない。近年、Dellは大きな問題に続けて直面している。バッテリーの大規模リコール問題、証券関連の株主訴訟、カナダでPC過熱の集団訴訟、不正な会計処理に対する当局の調査など、Dellはどこかで顧客を忘れてしまったのだろうか。あるいは、顧客創造は最初から建前に過ぎなかったのか。

 以上の成功例は、ドラッカーが著書『マネジメント』で喝破した「企業の目的は顧客創造である」、その目的を達成するための機能としてマーケティングとイノベーションがある――を地で行った結果である。岐路に立つDellからも1つの教訓が得られる。

 誠に残念ながらドラッカーの理論に反して失敗している企業は枚挙に暇がない。大手エレクトロニクスメーカーA社では、トップの判断基準がすべて利益だ。人事評価も設備投資認可もすべてが利益次第、赤字部門は社内で人間扱いされない。ドラッカーが利益の定義の1つを、企業の目的である顧客創造という成果を判断する基準であるとすることなど、およそA社トップの念頭にない。A社は利益の最大化を最終目的とする。

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