世の中には、日本の針路を誤るほど間違っているのになかなか修正できないでいることが少なからずある。「新卒一括採用」という慣習も、その1つだ。
増岡直二郎氏による辛口連載「生き残れない経営」のバックナンバーはこちら。
世の中には、日本の針路を誤るほど間違っているのになかなか修正できないでいることが少なからずあるものだ。間違いが、公然とまかり通っている。決して許されることではないのに・・・・・・。実に不思議だ。「新卒一括採用」という慣習も、その1つだ。
2010年7月6日付読売新聞の1面トップ記事、“就職留年7万9000人 大卒予定7人に1人”は、ショッキングな内容だ。“卒業年限を迎えながら留年する学生が、全国の大学で少なくとも7万9000人いると推計される”“根強い企業の「新卒一括採用」を背景に、就職が決まらず翌年に再び「新卒」として就職活動に臨む学生が急増している。
卒業予定者数は約56万8000人で、7人に1人は留年している計算になり、就職戦線の更なる激化を招いている。”“国の調査では、約3万1000人が、就職が決まらないまま卒業している。今回明らかになった留年者約7万9000人と合わせると就職浪人は約11万人となり、その分就職戦線が激化している計算になる”“就職留年の実態が具体的に明らかになったのは始めて”だそうだ。さらに、8月5日文科省公表の学校基本調査速報によると、今春大学卒業者約54万1000人のうち、就職も進学もしない進路未定者が10万6397人(昨年比約2万5000人増)だったという(8/6付け読売新聞)。
これらは、大変な問題である。国としても放置してはならない問題だ。
大学新卒者の一括採用は、日本に長く続いている慣習である。これが、「青田買い」とか「早苗買い」という悪習を生んだ。そもそも終身雇用や年功序列処遇という日本的経営システムを支える1つが、新卒一括採用制度と言われる。企業は、新卒者を一括採用することを長年続け、彼らを定年まで抱えることによって、社内の年功序列を維持することができる。
そこでは、中途採用者は見事に排除される。新卒同期会に入れてもらえない中途採用者たちは、対抗策として中採者の会を作って慰めあう。哀れでさえある。完全な差別の結果である。その辺の事情は、社内の日常会話にも如実に現れている。「彼は、何年入社だ?」「ああ、彼は中途」「あっ、そうか」。これで「彼」の全てが決まる。まるで、人格さえも。
新卒一括採用された者は無垢の状態で採用されるから企業に対する忠誠心が生まれ、長年にわたって構築される先輩・後輩、年令による上下の関係から社内秩序が維持され、家族ぐるみで社内の結束力が高まる。この点だけからでも、新卒一括採用がすでに時代の流れに遅れていることが分かるというものだ。
さらに、ある時期集中的に行われる採用によって採用や教育のコストが節約できるとも考えられているが、逆に変化の激しいグローバル時代に、画一的にして硬直化した人材しか採用できないし、教育できないという弊害を生み、あるいは創造力と活力を削ぐことになってきている。
採用される側から見たとき、景気や病気などの何らかの理由で新卒一括採用に漏れた者は、本人の力量とは無関係に、冒頭に触れたように社会にそのまま滞留することになり、あるいはやり直しができないまま、中途採用どころか派遣労働者・フリーターなどの差別された人生を選ばなければならないことになる。
新卒一括採用という現象の中で、企業はできるだけ有利に人材確保を進めようとする余り、卒業予定の学生の採用を早くから内定しようとする。「青田買い」である。事実、レジェンダ・コーポレーションが2011年4月入社希望の学生の就職活動について調査した結果、説明会・面接は2・3月にピーク、内々定は4月に集中している。内々定を受けられなかった者は、5月以降に内々定を受ける機会が激減した厳しい状況下で就職活動を続けなければならない。「青田買い」は、弊害が大きすぎる。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授