まず、何よりも学業の軽視につながる。専門科目の勉強が始まる3、4年生にかけて就職活動で時間をとられ、発表当番の学生がゼミを当然のように欠席し、内定を取るためなら授業を欠席してもいいなどの風潮がある。内定が決まると、学生の学業に対する熱意が失われ、学力低下につながる。
一方、企業も優秀な学生を望みながら、卒論テーマも決まらないうちから何を基準に選考するのか、卒業まで1年以上もある学生を「考えが甘い」などと評価できる立場ではないだろう。その上、内(々)定を決めておきながら、経済情勢や企業事情の変化を理由に「内(々)定取り消し」をするに到っては、何をかいわんやだ。
しかし、(言い過ぎだという批判を恐れずに言うなら)「盗人にも一分の理あり」で、新卒一括採用や青田買い擁護論者にも言い分があるらしい。就職活動期間が限定されれば、ある時期に集中し学生の負担が増え、大学の相談が雑になる、受験企業の選択肢が狭くなる、短時間の選考で学生の考える時間が減少する、企業にも学生にも自由にやらせたらいい、早く内定が決まると学生の親が安心する、内定決定後の学生生活を自由に楽しめる・・・・・・。何と本末転倒もはなはだしい言い分であることか。いちいち反論するのもバカバカしい。
企業と大学が新卒者の採用日程を申し合わせる「就職協定」が1997年に廃止されて以来、目に余る青田買いに対し、毎年経団連や大学の関係団体が選考活動の早期開始を自粛する倫理憲章を発表している。卒業学年当初や3年以下の学生に対する採用選考活動を慎むこと、正式内定日は卒業学年の10月1日以降とすることなど具体的に規定されている。しかし、いまだに守られた試しがない。なぜか。経団連傘下でない企業、経団連傘下でも倫理憲章共同宣言に参加しない企業、外資系企業などが守らないから、他の企業も後れを取るまいと倫理憲章を破るからだと言われる。
しかし、そんな申し合わせが破られる原因を議論していても何も生まれない。冒頭の逼迫した就職留年の実態を知るにつけ、そんなことを議論している時間はないはずだ。申し合わせがうまく機能しないなら、国が動かなければならない。例えば、通年採用にすればいい。
欧米では、新卒一括採用などに全くこだわらない。大学を卒業するとすぐ日本に来て、英会話の教師をしている米国の若者を何人か知っている。大学卒業後2、3年銀行に勤めていたが、退職して1年間の世界旅行をしているドイツの若者に出会ったこともある。彼らの将来の「定職」を心配する筆者に、彼らは何が心配かといぶかる。現に、数年後に彼らから有数な銀行に就職したとか、主要自動車メーカーに就職したという挨拶状をもらった。その後米国で再会した世界旅行の青年は、国連機関に就職したと言っていた。
あれほどの問題を抱える新卒一括採用と決別することは、焦眉の課題である。ただ、通年採用に切り替えるには、クリアしなければならない問題が多すぎる。国家的テーマである。国が主導して各界の有識者を集め、多方面から解決策を探る活動をすぐ始めるべきである。時間はない。今の瞬間も、多くの有為な若者が不本意にも就職留年で苦しんでいる。日本が、どんどん蝕まれて行っているのだ。
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授