不毛な総論はもう結構、有効な方法論を示せ生き残れない経営(1/2 ページ)

「教育をするという企業風土」がB社の中にはない。口先で「部下を教育しろ」と叫ぶだけでなく、企業風土を根付かせるのがトップや経営者の責務である。

» 2010年05月16日 00時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]

増岡直二郎氏による辛口連載「生き残れない経営」のバックナンバーはこちら




 企業内の勤務査定会議席上で昔からよく耳にし、今も繰り返し聞かれるセリフ、「○○君はがんばっていますから、もっと査定点を上乗せしてください」。それに対し、気の利いたトップは「誰でもがんばってるんだ」。

 そんな評価をする上司の下にいる○○君は不幸だ。日ごろ「がんばれ」としか指導されず、そんな基準でしか見られていないのだろう。スポーツ分野だって、がむしゃらに頑張る時代は既に終わり、フィジカル、メンタル両面にわたって科学的根拠に基づいた訓練方法が取り入れられている。ましてや、企業人が時間と体力を使って気合いでがんばる時代ではない。

 「勉強しろ」「本を読め」、言っている本人が勉強をあまりしないのならば、言われた方がその意図を理解できないのは当たり前だ。

 「部下を教育しろ」――確かに企業にとって大切な人材を育てなければならない。しかし、教育をする機会も与えず、仕事の与え方に工夫を凝らすこともせず、そもそも教育をするという企業風土も作らずに、お題目を唱えてだけいても誰も育たない。

 あるいは「収益を上げろ」「赤字は罪悪だ」などと、誰でも考えつくセリフをただ叫び続け、アイデアも金も人も出さないでいれば、状況が厳しければ厳しいほど、仕事のやり方は変わらないし、業績も好転しない。

 ただ総論を叫びながら尻を叩きっぱなしの管理者ほど無責任極まりない者はいないし、その部下は不幸だ。無責任な上司と不幸な部下が周辺にあふれてはいまいか。総論の気合いに応えることのできる有能な部下はまれにはいるが、大多数は違う。世の経営者や管理者は部下の指示や指導の仕方について、少しは反省してもらいたいものだ。

 ところで、何年も前から書店に「ハウツーもの」の書籍があふれている。最近も書店の店頭には『むかつく相手を一発で黙らせるオトナの対話術』『判りやすく伝える技術』『論理的話し方が身につく本』『利益の出し方』『生き方』……。あるはあるは、方法論の山である。しかし、ここでの議論はこれらの主張とは全く異質のものである。ハウツーものの書籍は、そこが終点である。コンビニ型人間を生むだけである。

 そういう意味で言うなら、ここでの方法論はそこが始点にすぎない。指示・指導する立場にある者は明快な経営理念を持っていなければ有効な方法論を示せないし、指示される方は度重なる指示・指導によって総合力を備えた有能な企業人に育っていくのだ。

 では、必ずしも多く見ることができない優れた有効な方法論の例を示そう。

 「がんばれ」……。量産がメインの工場で納期遅れが頻発し、莫大な仕掛かり品を抱え、当然収益も出ない非量産部門に対し、ただ「がんばれ」と終始気合いを入れていたトップが交代した。新しいトップは量産工場で非主流の非量産部門が抱く日ごろの不満を耳にして「非量産部門はコンピュータシステムの過疎地で、管理が前近代的だ。どうだ、コンピュータを導入してみないか」と言い出した。

 非量産部門にとっては、過去長い年月願ってもかなわなかったことだ。それから当事者たちはIT投資計画を作成し、新トップと一緒に本社の投資管理部門に申請した。申請が認可され、非量産部門の生産管理は改善の兆しを見せている。

 「勉強しろ」「本を読め」……。某大企業のA部長は、部下に対する大変厳しい指導が有名で、いつも部下を震え上がらせていた。Aは人間死ぬまで勉強だという主義だったが、部下に「勉強しろ」とは一言も言ったことはない。

 しかし、自分で読んだ書物、社内の図書館や書店で見つけためぼしい書籍や雑誌の題名、タイトル/ページをメモしては、課長・係長、あるいはこれはと思われる担当者に渡し、読むなり翻訳するなりして感想を聞かせてくれと、しばしば依頼した。あれほど厳しいAが、その時ばかりは柔和な表情で、まさに「依頼」していた。依頼された部下は、必死に読んで、必死に考えたものだ。

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