「最強の営業組織リクルート」はいかにしてネットメディアと向き合ったか(2/4 ページ)

» 2010年10月04日 13時51分 公開
[大西高弘,ITmedia]

転換期にきていた既存事業

 出木場氏は2004年から「じゃらん」の事業にかかわるようになった。そのころの「じゃらん」を取り巻く環境について出木場氏は次のように振り返る。

 「本誌(紙媒体)の売り上げがじわじわ下がり続け、新しく始めたネット事業はなかなか伸びてこない。先行するネットメディアのトップ企業はわれわれの3倍のシェアを持っていました。さらに悪いことにその差は毎年広がり続けていたのです。追い付くどころか、引き離されていく状況にみんな焦っていました」

 みんな焦ってはいたし、何とかしなくてはと思っていたが、具体的な数字を使って文書にまとめられた提案などは皆無だった。

 「危機感を持っている人も当然いました。ただ、それは酒の席などで口々に勝手に語られる話が多かった。だから、まず数字による状況把握をする必要を感じたのです」

 2003年、2004年と言えば、情報誌業界でもはっきりと不況感があらわになり始めたころだ。しかし、ネットメディアがその状況を打破してくれるという認識もなかった。

 「改革の必要性を意識している人と同時に、『このまま本誌を売り続けていれば何とかなるのではないか』という気持ちを持っている人もいた。ネットなんかに魂を売り渡すのは……という人もいました」(出木場氏)

 「じゃらん」の情報は地域性が強い。従って、リクルートには珍しく外部の営業代理店にネットメディアの営業を委託していた。しかしその代理店の成績も芳しくない。しびれを切らした出木場氏は自ら営業リストを持って飛び込み営業を敢行する。そこで思い知らされたのは、営業リストの質の問題だった。

 「故意に質の低い営業先がリスト化されたのではないが、本誌での売り上げを守ろうとするがあまり、ネットでの営業先が先細りの状態となっていた。『ネットが盛り上がるって昔から言っているけど、まったく実感がない。数字も取れない』そんな話をよく聞きました」

 本誌は広告を掲載していくらの世界。しかし、ネット事業は契約している宿泊先がお客を泊めた額の8%が取り分になる世界だ。営業担当者にとって目先の利益でいえばどちらに力が入るかは明白だ。しかし、紙媒体の売り上げが下がってきているという厳然とした事実を前に目先の成績のことだけを議論していても始まらない。

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