岩崎氏の元には、さまざまな組織から講演の依頼が殺到しているという。一般の企業はもちろんのこと、地方の経営者の集まり、看護師さんのグループ、消防庁、教育委員会など多岐にわたる。これらの依頼者がみんな口にするのは「自分たちで変わっていくしかない。だからこそ、今マネジメントが必要なのだ」という問題意識だ。
上位下達のガバナンスが効力を失っていく過程には、インターネットが大きな影響を及ぼしていると岩崎氏は話す。
「上位下達のガバナンスが成立していた理由、それは、組織のトップが一括して情報を握っていたわけです。トップは会社の金で海外などに出かけ、そこでしか知り得ない情報を得ていた。その一握りの人しか知らない情報が力の源泉だった。ところがインターネットが登場し、誰でも多くの情報に触れられるようになった。例えば、ファッション。今や一般の人の方が海外も含めて最新の情報を豊富に持っていることが多い。アパレルメーカーのトップだからといって、誰よりもファッションについて詳しいとは限らない」
もちろん今でも組織のトップにしか触れられない情報、つくり得ないネットワークは残っている。しかし、おしなべてインターネットの登場以来、情報の質と量という意味で格差はなくなった。これはドラッカーが予感した「知識社会」のあり様だといえる。
ガバナンスの変質によってマネジメントの方法も変化させざるを得ない、その例として岩崎氏はファーストリテイリングの例を挙げた。
ファーストリテイリングでも、つい最近までほかのチェーンストアと同じく、かなり詳細なマニュアルによって各店舗を管理していた。しかし各店舗それぞれ同じマニュアルで運営していても売り上げに差が出る。立地条件などの違いを考慮しても余りある差が出るのはなぜか。それを調べてみると、結局は店長の力の差が出てしまうということだった。
「優秀な店長はマニュアルにはない動きをしているというのですね。マニュアルを守りながら、そこからさらに効果的な陳列をしてみたりして、お客のニーズに常に目を配っているわけです。そこで、ファーストリテイリングでは店長に対して店舗運営に関する権限を大幅に与えるようになっているそうです」(岩崎氏)
店舗運営についても、管理するチェーンの本部が顧客のあらゆる情報を握っており、その情報を基に作成された店舗運営が最も正しい指針、つまりスタンダードとなっていた。もちろん、その知見がまったく否定されるものではないが、日々変化する顧客のニーズを的確に感じ取り、それをすぐさまサービスに転換する現場の力は無視できないものになっているわけだ。
さらに言えば、現在は多くのチェーンストアでは業績に関する詳細な情報が現場のマネジメント層に行きわたるようになっていることなども影響しているだろう。わずかな数の人たちだけが情報を握って、マニュアル通りに店舗を運営していても右肩上がりに業績が伸びていく時代は終わっているのだ。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授