絶対視している無自覚な前提の裏には「どうせ、あいつらには言っても分からない」「自分にはそんな変化は起こせるはずがない」といった根深い諦めや「どうせ社長は自分が金儲けしたいだけだよね」といった皮肉めいた声が潜んでいます。これが三つ目の『諦めと皮肉』の層です。
『諦めと皮肉』は、多くの場合、「自分への諦めと皮肉」「周囲(会社や国といった集合体も含む)への諦めと皮肉」「人間という存在や人生そのものへの諦めと皮肉」の3つの種類に分類されます。
そして、非常に重要な点なのですが、人はこの無自覚に持っている諦めと、一貫した言動を取り続けるのです。例えば「上が変わらなければ、どうせ何も変わらない」という諦めを持っている人は、会議で上司が何を言おうとも「意見があったら何でもいってくれ」と促されても、何も言わずに黙っているといった状況が生じます。
第一層の「ナイスな言動をする層」や、第二層の「人や自分を評価・判断する層」は本人が自覚・認識できている領域なので、乗り越えることは比較的容易です。しかし、この第三層以降は本人ですら無自覚な領域であるため、乗り越えるためには困難が伴います。
ポイント:この諦めと皮肉めいた声を乗り越える鍵は、探究と自己開示にあります。自分が何を決めつけているのか、諦めているのかを深く探究し、自己開示をしたときに、初めて場の中で共感が生まれます。
また、自己開示には返報性があり、一人の自己開示から、周りの深い諦めも次々と明らかにされ、場が動き始めます。つまり、自己開示は、周りに連鎖し、場に広がっていくのです。その過程は決して居心地がよいと言えませんが、これまで停滞していた流れが嘘のように動き始めます。
しかし、「自分への諦めと皮肉」は周囲から下に見られてしまうのではないかという恐怖、「周囲への諦めと皮肉」は周りから嫌われてしまうのではないかという恐怖、「人間・人生への諦めと皮肉」はその両方の恐怖が伴うため、徹底した安全な場作りが重要となってきます。
諦めと皮肉の層を越えると、いままで見えていなかった現実が見えてきます。リレーションシップ・クライシスに陥っている組織であれば、多くの場合「このままでは未来はない」という現実でしょう。そして、その絶望的な未来を回避し、望ましい未来を実現するためには、想像を絶する労力や自分がいままで築いてきたものを失うくらいの相当な覚悟が必要だという変化への『恐れ』が沸きあがります。これが『恐れ』の層です。
ポイント:
現状のままだと将来どうなるかということをとことんイメージし「健全なる絶望感」を抱いた上で、現状から一歩踏み出すことを選択するのがこの層を突破する鍵です。
以上、4つの層を乗り越え、組織のメンバーが評論家・分析家姿勢から当事者姿勢へと転換したとき、いままで葛藤していたエネルギーが昇華され、場の中に、本当に大切なことや新たなビジョンと行動力が現れ出るのです。
リレーションシップ・クライシスを解決するプロジェクトでは、ファシリテーターがナビゲーターとなってこの『地層モデル』を深く潜っていきます。しかし、通常の会議や1対1の話し合いの際にも、自分たちはどの層にいるのかを意識するだけでも、生産性が大きく変わってくるので、ぜひ、実践してみてください。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授