この中でIT企業に求められるものは、オフショア開発と競合する領域での事業戦略の練り直しだ。まず、何よりも技術力で優位に立たなければならない。そして顧客に新しく大きな付加価値を提供し、合わせて新市場(低炭素社会の実現、少子高齢化社会への対応など)の創造を心がけなければならない。
ユーザー企業のアウトソーシングも増加し、IT部門の企画力・技術力が一層問われる。こうした流れの中で必要とされる人材は、IT企業では高度な技術力を持ち、高いユーザー要求に応えられる創造力・企画力・グローバル力、そして顧客に劣らぬ業務知識を持ち、クラウド環境でのシステム構築・維持・運用ができる力をもつ人材が求められる。
ユーザー企業では単なるシステム開発力でなく、経営企画力が一層重要となり、クラウドの特性を理解し、クラウド基盤上でのシステム設計・構築ができる人材が求められよう。そういう技術力が高度で質が高い人材育成を企業が学校教育に求める風潮が見られるが、技術力や質の高さの問題から無理があることが分かるというものだ。
すなわちIT企業からの人材要求内容として「チームによるシステム開発経験」「業務に役立つプログラミング技法の習得」「チームワークやコミュニケーション能力の育成」「問題発見・解決力の習得」が上位を占める(「人材白書」)。すなわち、早期戦力化の要求だ。
また人材確保については、「育成より採用」という風潮がある。これらのことから、企業は学校教育に人材育成を期待していることが分かる。しかし、これは大いなる筋違いだ。
まず新卒採用には、企業は新卒者の即戦力や技術力にとらわれず「人」を見抜いて採用すべきだ。採用時優秀と思われた人材が必ずしも使いものになるとは限らない。
そもそも人材育成は、企業が負うべき責任だ。企業が学校教育に期待するのは企業の責任逃れだ。専門学校でもあるまいし、大学にはもっと基本的で重要な教育があるはずだ。例えばインターンシップでも、せいぜい1週間から長くて1カ月間、その程度の期間は就社後に充分取れる。さらに重要なことは、上述したIT環境の中で必要とされる高度な技術と質の高い人材は、基礎技術と物の考え方の習得を主とする大学教育に期待できるものではなく、企業が実務や実践の中で身につけさせ、鍛え上げるべきものだ。
IT人材の有効活用について、企業の姿勢・経営方針が問われていることは、前回も指摘した。IT人材が所属企業に対して持つイメージとして、「会社のビジョンが不明確」であると64.7%も感じており(「人材白書」)、さらに「必要人材を従業員に提示できず、コミュニケ−ションに欠ける」が22%以上あり、IT人材育成で事業戦略とのマッチングがなく、戦略の定義さえない企業が40%以上もある(JISA 情報サービス産業協会「2005年白書」)。
ここから得られる教訓として、IT人材から不信感をもたれる企業内IT人材育成には、企業戦略との整合性を持ったIT戦略のもとに、人材育成戦略を明確にする必要がある。
すなわち、事業戦略におけるITの位置づけ、そこに必要とされる技術・資質・人材を明確に示し、人材戦略を立てる。例えば、IT人材の業務遂行に効果を期待し、彼らの将来を確かなものにするため、キャリアプランを明示し、ライン業務も経験させることで将来の業務選択肢を広げる。
そのためには、座学研修ももちろん必要だが、日常業務の中でテーマを与えてのOJT教育、ライン業務との計画的ローテーション、フェロー制度などIT技術者の将来処遇制度の確立などが求められる。そうすれば、IT人材は閉塞感から解き放たれ、将来に明かりが見えてくる。それができるのは、トップをはじめとする経営者しかない。すべてに先んじて、経営者の責任が問われる。
次は、IT人材自身の問題だ。これについても前回指摘したとおり、仕事や職場環境に対する不満の最大は、「社内での今後のキャリアに対する見通し」に不満足が67.8%もあり、給与以外の悩みや問題点で1、2位を占めるのは、「このままこの仕事を続けていていいのかどうか不安になる」が37.8%、「将来自分がどうなるのかが見えない」が37.8%だ。さらに、「自分の将来のキャリアが不安」だと、73.1%も感じている(「人材白書」 )。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授