上記2つのポイントを押さえた仕組みを企業の状況に合わせて作り上げて行く事が有効です。以下、そのポイントに関して解説します。
OJTを実施する社員のモチベーション向上などにつながる仕組みとして、評価制度なども実施に向けてもちろん検討する必要があります。しかし、そのような制度まで考えてからでないと実施できないとなると、時間も手間もかかります。さらに、OJTを提供する側、受ける側の特徴も考えて実施するとなると、どのような手法にせよ「実務と直結する」内容で行う事が効果的です。そして、これを全社的に展開するためには分かりやすいツール、多くの人が実務で使うツールを活用する事が有効です。本テーマであるSEのコミュニケーション能力向上という観点からは、議事録やWBSなどが有効なツールとなります。今回は、議事録を例にとって実際にわたしがお客さま先でOJTに組み込むために行っている手法を紹介します。
そもそも議事録は何のために書くかと言うと、会議で決まった事を参加者が共通認識として持って次の行動に移る事ができるようにする、さらには会議に参加していなかった人も議事録を読めば議論された事、決定した事を共有できるようにする事が目的です。この目的を達成するためには、議事録を書く人は議事の内容と決定事項を理解していなければならない。この役割を育成の対象者に担ってもらうことで、担当している仕事およびそこで利用される技術の理解を深めると同時に、人に分かりやすい書類を書くと言うコミュニケーション能力も向上させる事ができる。また、議事録はシステム開発にはなくてはならないもの。進捗管理、および成果物の品質向上には不可欠のツールです。つまり、議事録を使ってのOJTは、うまく機能すれば一石二鳥、あるいは三鳥の仕組みなのです。では、この仕組みを機能させる手法を説明します。
まず、OJT実施前に準備するもの、行っておくべき事があります。準備するものは、議事録のテンプレートと内容の善し悪しが良く分かる具体的なサンプルです。テンプレートは、ヘッダー、フッター、およびボディに何を書くかが分かりやすいものでなければなりません。また、修正がしやすいツールを使う必要があります。そのテンプレートに対して誰もが良しあしを理解しやすいサンプルを用意しておけば、育成対象者にどのような議事録を書く事が求められているのかを簡単に説明できます。この説明を事前に行なわないと、育成対象者はどのレベルの議事録を書く事が求められているのかを理解しないまま議事録を書くことになってしまいます。この最初のボタンで掛け違いが起こると、OJTとして指導しても指導される側が指導内容を納得しなくなるリスクが高くなります。
次に、OJTの実施方法ですが、基本的にOJTはレビューで行うことになります。このレビューに関しては、わたしは2段階のレビューを設定する事をお勧めしています。最初のレビューは議事録を書く前、次のレビューは議事録を書いた後のレビューです。この作業において大事な事は、作業時間を決めて行う事です。会議の内容にもよりますが、例えば最初のレビュー前の議事内容の確認に10分、そのレビューに10分、議事録作成に30分、最終レビューに30分といった具合です。この時間を決めずに行うと、指導ばかりに時間が取られたり、必要以上に議事録作成に時間をかけたりと、実務に支障をきたすような事象を引き起こしかねません。
では、具体的なOJTの内容に関して説明します。最初のレビューは、議事内容の理解を深める事が目的です。会議終了後、レビュー前に議事録作成者に自分のとったメモの内容を確認してもらい、不明点などをピックアップしてもらいます。そこに対する質疑が最初のレビューです。議事録作成者の疑問に答える事も重要ですが、恐らく作成者が理解できていないであろうことを指摘する事もレビューをする人の重要な役割です。不明点が明確になれば、議事録を作成してもらいます。そのレビューにおいては、
という、コミュニケーションスキルの観点からのレビューと、
の観点からのレビュー双方が必要となります。レビューする人は、コミュニケーションスキルの観点に関しては「青」、議事内容に関しては「赤」と言ったように、ペンの色を変えてチェックするなどの工夫をすると分かりやすくなると思います。このチェック後の議事録を作成者に渡し、レビュー前に自分なりに考えてみる時間を作るのも効果的です。最終的には、作成者とともにチェック後の議事録を使ってレビューを行い、必要な修正ポイントと修正の仕方を指導します。このようなOJTの仕組みが機能すれば、実務でのアウトプットが向上すると同時に育成対象者ばかりでなく、OJTの提供者のスキルも向上する事は言うまでもありません。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授