新たなテクノロジーの出現と、それを電光石火のごとく実践することで、業界やコマースを根本から変えてしまうさまざまな新ビジネスモデルが誕生しています。例えば、アップル社のiPodにより音楽業界には大変革がもたらされ、スカイプの出現によって通信の分野はひっくり返り、グラミン銀行はマイクロレンディングを新たな融資の形として社会に広めました。
ビジネスモデル(組織が価値を生み出し、提供し、守る仕組み)は、企業家の新しいアイディアを実現し、既存の企業の進む方向を再調整することができます。良い例としてスウォッチ・グループを見てみましょう。スイス企業であるスウォッチ・グループは以前、高級腕時計を専門に扱っていましたが、アジアのライバル企業に対抗するため、低価格製品を展開しました。これによりスウォッチ・グループは市場の高所得層と低所得層の両方で大きく成功することができました。なぜ成功できたかと言うと、同社は層ごとに異なるビジネスモデルを用いて商品を提供する道を選んだからです。スウォッチ・グループは、ビジネスモデルを1つではなく複数管理している企業の一例です。
新しい商品やサービスが生まれると、それを市場で展開させるためには新しいアイディアが必要になります。それがビジネスモデルとして新しい価値創造につながります。ただ、そればかりではなく、商品の提供と同時に、構築されたビジネスモデルを守るためのモデルも必要となるわけですし、また、マーケットによっても異なるビジネスモデルを展開していくことが必要であるということです。
革新的なビジネスモデルを練ることは、時には組織的無秩序に類似するプロセスであり、独創性を取り入れる新しいアプローチを必要とします。「ビジネスモデル・キャンバス」は、集中的なブレーンストーミングや従業員によるインスピレーションを促す場を提供するものです。エリクソン社やIBM、デロイト社などの大手企業は、ビジネスモデル・キャンバスを「ビジネスモデルの構築」のために取り入れています。
ビジネスモデル・キャンバスとは、ビジネスモデルの9つの重要な要素を理解するために自由に使うことのできるテンプレートのことです。「キャンバス」には通常、ビジネスモデルの要素ごとに 枠を設けた大きな紙を使います。モデル設計の参加者はビジネスモデルの構成要素の案が書かれた付箋をキャンバスに貼り付け、それをあちこち移動させます。この付箋に書かれたアイディアはそれぞれ、キャンバス全体に影響を与えます。
ビジネスモデルは独立した要素の集まりではなく、動的システムであるため、1つの要素が変化すれば他の要素にも影響を与えやすくなっています。また、設計中のモデルは、目に見える「ビルディングブロック」スタイルを採用し、紙の上で案を練っているため、簡単に変えることができます。
このような意図的にシンプルにしたアプローチを取ることで、業務詳細についての話し合いを最小限に抑えながら、より広い戦略的思考を最大限引き出すことができます。また、短い提案を書き込んだ付箋を使うことは、ビジネスプランの主要要素を系統だった方法で構築する効果的な手段です。ビジネスモデル・キャンバスは、組織を、個々の分離した営業活動や経営機能としてではなく、1つのまとまりとして考えるよう促してくれます。
ビジネスモデルとは、企業全体の中で新しいものを生み出し、独立したひとつのシステムとして動かすのではなく、既存の企業内の組織の結びつきを一度、パーツごとに分断して、それを新しいシステムに組み替えることで運用させるものであるということなのでしょう。
そうすることで、各パーツの特性を生かしながら新しいアクションの展開が期待できるということにつながりますし、前項目に言及されているように複数のビジネスモデルの構築においても最小限の準備期間でそれが達成できるということにつながるのではないでしょうか。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授