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» 2011年05月17日 08時00分 公開

iPadが生み出すマーケティング新戦略:ウイスキーとiPadの組み合わせ アサヒビールのブランディング戦略 (2/2)

[野崎耕司(ビルコム),ITmedia]
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消費者を「ファン」化

 それでは、タブレット端末上のアプリを介したマーケティング活動において、企業が意識すべきことは何だろうか。まず、マーケティング業界のトレンドに注目したい。

 昨今のマーケティング業界は「Ad as a commercial」から「Contents as a commercial」へとコンセプトがシフトしている。つまり、マーケティングのトレンドは、企業が伝えたいことを消費者に一方的に発信するという広告的手法から、消費者が興味をもつコンテンツによって消費者を「ファン」化するというコンテンツ型手法へと変化し始めている。これは例えば飲料市場のように、既に市場が飽和状態にあり、機能的差別性が打ち出しにくいマーケットにおいて得に顕著である。これらのマーケットでは、機能にフォーカスした商品の訴求よりも、顧客の感性に訴えかけ、情緒的な差別化を図るコンテンツ型コミュニケーションが有効だと考えられるようになってきている。

 Contents as a commercialというコンセプトは、タブレット端末の活用においても求められる。例えば、無印良品が提供するアプリ「MUJI CALENDAR」は、Googleカレンダーと同期を図れるなど、ユーザーが自分の用途に合わせてカスタマイズできる人気のiPadアプリだ。同じく無印良品が提供する「MUJI TO GO」というアプリでは、「世界時計」「為替」「天気」「電卓」などの情報に加えて、移動やビジネスに役立つ無印良品の商品を紹介している。このように無印良品は、ユーザー視点のコンテンツを通してブランド構築を行っている。

 タブレット端末上のアプリを介したマーケティングにおいて、もう1つ意識すべきことは消費者のメディア接触行動である。多様化する消費者の接触メディアに合わせて、企業には消費者のメディア接触変化に適応した新しいデジタルメディアでのリーチ、消費者の生活導線に自然と入り込むコンタクトポイントの創出などが求められている。

無印良品が提供するiPadアプリ 無印良品が提供するiPadアプリ

iPadを見ながらウイスキーを…

 では実際にiPad上のアプリマーケティングを通して、消費者のライフスタイルに訴えかけた事例を紹介する。アサヒビールが「ニッカウヰスキー」のブランド認知向上のために提供したiPadアプリ「“バー読”in My Room」である。これは「本をつまみにウイスキーに酔う」をコンセプトに、電子書籍端末のiPadで、同社のウイスキーに絡めたオリジナルのショートストーリーをJAZZとともに楽しめるという、マルチメディア型のアプリだ。

 そもそもアサヒビールが「バー読」キャンペーンを開始するに至ったのは、ハイボールブームを契機にウイスキーを飲み始めた人々に対して、ウイスキーを飲む習慣を身に付けてもらうことだった。そこで、「ゆったりとした時間とともにウイスキーと読書を楽しむライフスタイル」という消費者視点の提案を目的に、バー読キャンペーンを展開した。

 このキャンペーンでは、これまで同社が運営する店舗「ニッカ・ブレンダーズバー」でウイスキーと一緒に本が出てくるメニューを展開したり、丸善とのコラボレーションでウイスキーの小瓶と文庫本をセットにして販売したりするなどの施策が行われてきた。

 さらに消費者へのリーチを広げるために、iPadを活用したマーケティングを検討した。背景には、これまでのキャンペーンでウイスキーと読書の親和性が高いことが分かっていたため、電子書籍の活用が念頭に浮かび上がったことがある。加えて、当社が実施したiPadユーザー実態調査では、iPadの利用場所は自宅が95%、利用時間帯は就寝前が75%という結果が出ており、iPadは1日の中で最もリラックスした時間帯に使われるのが多いことが分かっていた。ここにiPadの利用シーンとウイスキーの飲用シーンに共通点を見出し、今回のアプリ開発につながったのである。

 実際のアプリ制作では、端末の利用シーンを具体的に想定して、コンテンツをデザインした。自宅のソファで利用が想定されるiPadの特性を生かし、ショートストーリーコンテンツに加えて、蒸溜所の写真などを大きな画像で寛ぎながら楽しめる「写真館」をイメージしたコンテンツも用意した。

 結果、同社の狙いは見事的中し、「“バー読”in My Room」は配信開始から1週間で1万ダウンロードを突破した。現在、iPadおよびiPhoneの総ダウンロード数は約2万件に上っている。またtwitterやブログなど各種ソーシャルメディアでの反応もよく、「ウイスキーが飲みたくなった」「家飲みがしたい」など、ユーザーの態度変容を示唆するポジティブなコメントも見られた。

 このように利用シーンから導いたユーザー視点のコンテンツ設計こそ、今回のアプリの成功要因といえるだろう。

 この事例からも分かるように、顧客のライフスタイルに寄り添ったブランディングやマーケティングが求められる中で、iPadをはじめとしたタブレット端末は彼らの日常生活に深く入り込んでおり、今後も有効なコンタクトポイントになることが想定される。

 デジタル時代における企業ブランディングやマーケティングは、このように次々と登場する新たなコンタクトポイントをうまく活用することが求められるだろう。



著者プロフィール

野崎耕司(のざき こうじ)

ビルコム株式会社

商品開発Div, 商品開発/R&D Gr. デジタルマーケティングDiv. プランニング&クリエイティブ Gr. Director。

2006年ビルコム株式会社に入社し、コンサル、不動産、Webサービス、出版などBtoB、BtoCなど幅広い業界でのPRコンサルティングを経験。デジタルツールを駆使したマーケティングプランニングに精通しており、共著に『Twitterマーケティング』(インプレスジャパン)がある。



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