富裕層向けから手頃な価格で購入できる商品までそろえた幅広い価格戦略。いちはやく宣伝と販売チャンネルを結びつけるなど、不況に強い美容ビジネスにはヒントが隠れている。
この記事は、洋書配信サービス「エグゼクティブブックサマリー」から記事提供を受け、抜粋を掲載したものです。サービスを運営するストラテジィエレメントのコンサルタント、鬼塚俊宏氏が中心となり、独自の視点で解説します。
この要約書から学べること
ロレアル、コルゲート、オイル・オブ・オレイ、カバーガールなどの有名な美容ブランドは非常になじみ深く、多くの消費者に愛用されています。また、本書に書かれた、現代の美容産業の起源と成長に関する研究は非常に興味深いものです。著者のジェフリー・ジョーンズは、18世紀にフランスの手袋製造業者が生み出した香料から、今日の美容業界の発展まで、美容ビジネスのルーツをたどっています。
また、消費者の好み、経済および政治の変動、グローバリゼーション、さまざまな理想美など、世界中の美容市場に及ぼされる長年の影響を本書の中で検証しています。本書は、ビジネスに関するヒントが隠されている良書でもあり、ぜひ、美容業界に携わる人だけではなく、他業種の経営者、経営幹部にも一読してほしい1冊です。
「美容」それは女性にとって、いや、最近は男性にとっても決して興味を持たないジャンルではないはずです。女性は女性として、男性は男性としての魅力をさらに引き出すのが美容であることは間違いありません。
それゆえに、美容がビジネスとして成立することは誰しも容易に想像できることだと思います。ただ、一言で美容とはいっても、その中のジャンルは非常に広いものです。何よりも第三者に心地よさを与える事が目的ですから、人それぞれによってその感覚は異なります。
本書では、美容ビジネスに焦点を絞って、その起源から今に至るまでの歴史、そして現在、世界の先端を行く美容業界のトップ企業が、いったいどのように立ちあがり、現在に至っているのか? という興味深い内容も書かれています。
誰もが興味を持ち、需要のある業界ですが、実際のところこの業界に絞ったテーマの類書は意外と少ないかもしれません。そういう意味では、この本から学べる事は非常に多いと思います。
美容ビジネスは、香水から始まりました。古代、特に貴族の間で盛んに香りが使用され、中世になると、香水や香料は主に治療目的で使用されるようになりました。肌につけるのではなく、病気の予防のために飲んだり、あるいは肌着や洋服に振りかけるような使い方を行っていました。
18世紀のフランスでは、手袋製造会社が皮手袋に使用するなめし皮が発する嫌なにおいを消すために、香水を作り始めました。手袋製造会社の多くがフランスのプロバンス地方の町、グラースに集まっており、グラースは香水作りに使用する花や植物を育てるには理想的な場所となっていました。
また、ルイ15世が作った「香水宮廷」の影響で、石けん、おしろい、毛髪染料の使用が流行になりました。さらに、ヨハン・マリア・ファリナによって薄い香りが新しく開発され、彼が住んでいた町の名前を取って「オーデコロン」と名付けられました。この香りはナポレオンに非常に愛されることになります。
1828年には、ピエール・フランソワ・パスカル・ゲランが香水、石けん、化粧水をパリに住む貴族たちに売り始めました。その少し後、ロンドンに住むフランス人のユージーン・リンメルは、ステータスと階級に結び付けた香水を開発、販売しました。リンメルは、通信販売、劇場での宣伝を使って香水を宣伝した最初の人物であり、著名なフランスの石板工を雇い、香水瓶のラベルのデザインをさせました。
意外な話だと思いませんか? 広いくくりの中では確かに、香水も美容の1つでしょう。しかし、香りがその起源であった事は大変に興味深いと思います。現在販売されている香水は素敵な瓶に入ったものが多いと思いますが、視覚から美を追求しようとしたのも、その表れかもしれません。
しかし、この章でもっとも興味深いのは、ステータスと階級に香水を結びつけ、宣伝と販売チャンネルを結びつけた、本格的な美容ビジネスが香水から始まったことではないでしょうか。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授