世界の美容業界の歴史から学ぶ、欲求ビジネス海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(2/2 ページ)

» 2011年06月29日 07時00分 公開
[エグゼクティブブックサマリー,ITmedia]
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成功の香り

 19世紀半ばには、ロンドンやパリには何百軒もの香水製造業者がひしめくようになり、その主な顧客は上流階級の人々でした。香水製造業者は、より優れた製造方法に投資し、異なる原材料を探すことで製品ラインと市場を拡大する道を探り始めたのです。

 この新しい香りの研究によって、グラースを拠点とするクリス社(1850年にはすでに500人以上の従業員を抱え、売上は50万フラン以上に達していた)は販売範囲を国外にまで拡大しました。アルジェリアに工場を開き、ゼラニウム、オレンジ、ユーカリなどの天然原料を育て、クリスやウビガンなどの香水製造業者は自然の香りを再現しただけでなく、革新的な新しい香料を合成させました。

 こういった新しい技術が発達した事により、新しい流通経路も生まれました。一部の香水製造業者は富裕層向けの店でしか製品を売らず、また他の業者はより手頃な価格でデパートに商品を置きました。また、アメリカの企業は、パリは世界のファッションとぜい沢という評判を利用しました。ニューヨークを拠点とする香水製造業者であるリチャード・ハドナット社はフランスの名声を利用し、90種類の香りを作り販売しました。

 また、コルゲートなどの他の米国企業は低価格市場に焦点を当てました。さらに、書籍の訪問販売から始まったエイボン社が配った香水のサンプルは、主に女性常連客の間で大ヒットしました。

 20世紀初頭、フランソワ・コティは、大衆の心に訴えかけることで自身の香水製造業を素早く成長させることに成功しました。コティは、香水の瓶をわざと床に落として割り、顧客にその香りをかいでもらうことで、パリの百貨店に自分の最初の製品を取り扱ってもらえるよう説得したのです。

 また、アメリカのマーケターに習い、営業チームを雇ってフランス中に製品を売り歩きました。コティは化粧品も扱うなど製品ラインを拡大し、香水瓶を自社で製造することで事業を垂直的に統合しました。コティ社の香水瓶は、ルネ・ラリックという「宝石マイスター」によってデザインされていました。

 香りの良さもさることながら、いかに販売するのか?そういったパフォーマンスや流通形態に、その秘密が隠されていると言っても過言ではありません。

女性にとっての無上の栄光

 電気と写真技術の出現、さらに鏡の質の向上により、人々は以前よりも「視覚的自己意識」を高く持つようになりました。つまり、見た目が悪ければ、良い香りをまとっても意味が無いと思い始めたのです。人々は自分の外見にそれまで以上に気を配り、ケアするようになりました。

 今日の美容業界の企業の多くは、ヘアケアの分野から始ままっています。19世紀半ば前までは、女性は自宅でヘアスタイルを整えていました。しかし、1853年、ナポレオン3世の皇后ウジェニー・ド・モンティジョが自分の髪形を整えるために王室美容師を雇ったことで、女性のためのヘアサロンが大流行しました。

 また、1870年代には、上流階級を顧客とした「高級ヘアサロン」がパリに現れ、19世紀の終わりにはパリは数え切れないほどのヘアサロンでひしめくようになったのです。

 それと同時に、ヘアアイロンの初期型を発明したフランソワ・マーセルや、パーマをかける様々な手法を生み出したシャルル・ネスレなど、新しい手法を考える企業家が現れました。

 ヘアサロンは美容製品を売り込む絶好の場でした。フランツ・シュトレイヤーは、かつら用のヘアネットを発明し、ウエラ社を立ち上げました。ハンス・シュワルツコフは、初めてパウダーシャンプーを開発しただけでなく、「シャンプー」という名前をヒンディー語から作り出し、広めました。

 ウージェンヌ・シュエレールは毛髪染料を大幅に進化させ、ロレアル社を設立し、ヘアスタイルに関するニュースレターを発行したり、美容師学校を設立したりしました。

 1914年のアメリカでは、アフリカ系アメリカ人女性のミリオネアが2人誕生しました。自力で大成した女性ミリオネアはこの2人が初めてでした。アニー・マローンとマダム・CJ・ウォーカーの2人はそれぞれ独立して仕事をし、それまで他の美容製品の企業が無視していた市場である、黒人女性向けのヘアケア製品を提供するビジネスを立ち上げ、成功を収めたのです。

 “The First Impression Is The Best”ということわざがあります。ここに書かれている事がその起源ではないとは思いますが、確かに香りだけでは自らを美しく見せる事はできないのは当然です。視覚の上では、確かにヘアスタイルは重要です。ですから、スキンケアと、ほぼ同時にヘアケアが登場したというのも、うなづける話だと思います。

著者紹介

ジェフリー・ジョーンズは、ハーバード大学ビジネススクールの経営史教授であり、ロンドンスクール・オブ・エコノミクスで教鞭をとっていた経験があります。また国際ビジネスに関する著書が複数あります。


プロフィール:鬼塚俊宏ストラテジィエレメント社長

鬼塚俊宏氏

経営コンサルタント(ビジネスモデルコンサルタント・セールスコピーライター)。経営コンサルタントとして、上場企業から個人プロフェッショナルまで、420社以上(1400案件以上)の企業経営を支援。特に集客モデルの構築とビジネスモデルプロデュースを得意とする。またセールスコピーライターという肩書も持ち、そのライティングスキルを生かしたマーケティング施策は、多くの企業を「高収益企業」へと変貌させてきた。


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