顧客の関心を引き付ける争いが急速に激化していることから、従来の宣伝手法はその力を失いつつあります。今日の顧客は録画したり、音声を消したり、あるいはソーシャルネットワークを駆使することで、何を聞き、何を見るか自分たちで決めています。かつて効果を発揮していた宣伝手法が昔ほど機能しなくなった一方で、ゲームの使用者は増加の一途を辿っており、ゲームが顧客の関心を奪い合っています。
今、このようなゲームに勝つためには、マーケティングもゲームにならなければなりません。マーケティングミックスにゲームの要素を取り入れることで、競争力を強め、売上を上昇させることが出来ます。
1920年代以降、NBCニュースは膨大な量の映像データを蓄積してきました。しかし、そのニュース映像は長期間使用されていませんでした。そのため、テレビプロデューサーのクリス・タインはこのままほこりをかぶせておく代わりに、高校の歴史の授業で使用するiCueというソフトウェア・アプリケーションを作りました。
それに続いて「What's Your iCue? (あなたのアイキューは? )」というクイズゲームをFacebookに公開しました。「What's Your iCue?」は瞬く間にヒットし、毎月10万人のユーザーが使用し、ネットワークの収益を上昇させる存在になりました。
このゲームの成功により、NBCは、肯定的なブランドイメージを築き、長期的ロイヤルティを生み出し、収益を上げるといういくつかの目的を達成することが出来ました。
また、NBCのクイズゲームは「定着性」のあるユーザー体験を生み出しました。定着性とは、インターネット上のロイヤルティの測定基準であり、1人のユーザーがサイトで費やした時間の長さと、1年間にそのサイトに訪れる回数との関係を測るものです。
ソーシャルネットワーキングサイトや複数参加型ゲームは最も高いレベルの定着性を誇っています。洗練されたゲームアプリケーションを取り入れることで、顧客の愛着心を強め、NBCが「What's Your iCue?」で手にしたような恩恵を授かることができます。
マイレージ・プログラムなどのロイヤルティ・システムは、ゲームとマーケティングの相性の良さを証明しています。現代のマイレージ・プログラムには、ポイントを貯め、レベルを上げ、特典を獲得し、課題を乗り越えるといった、ロイヤルティを生み出すゲーム的要素がいくつも使われています。
また、人々は、例え自分ではゲームだと思っていなくても、毎日の生活の中で競争に参加しています。例えば、電車がホームに入って来ると、乗客は自分のスペースを確保しようと競争しますし、スターバックスでは注文するために横入りする人がいます。マーケターはこのような人間行動のサインを活用し、効果的なゲームを構成します。その際、次のような要素があらゆるタイプのゲームに必要不可欠となります。
ゲームに必要不可欠な要素
・ステータスとレベル:どの程度目標に近づいているか、あるいは、次の課題に達しているか示すもの
・ポイント:誰が首位にいるか記録を取る手段
・ルール:ゲームの構造
・実証可能性:ゲームの勝者が誰か示す社会的解釈
携帯電話やスマートフォンなど、携帯性に優れたコミュニケーション機器を常に持っている現代の人であれば、必然と気軽な娯楽を機器に求めてしまうのは当然でしょうし、その中で自然と告知活動ができてしまうのは画期的なことでしょう。しかも人間はあらゆるところで無意識に競争をおこなっているのですから、もってこいのマーケティングツールとなり得るわけです。
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明治学院大学 経済学部准教授