立ち直る力を持った企業海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(2/3 ページ)

» 2011年08月17日 07時00分 公開
[エグゼクティブブックサマリー,ITmedia]
エグゼクティブブックサマリー

予期せぬ出来事を予期する

 2000年3月1日、ニューメキシコ州アルバカーキにあるフィリップ社のコンピューターチップ製造工場で雷によって火災が発生しました。しかし、火災発生当初はそれほど大したことではないと考えられていました。消防車が到着した時にはフィリップ社の社員によって火はすでに消し止められており、けが人は出ませんでした。

 しかし、この小さな火災によって、世界中の大手企業のサプライチェーンが断絶してしまいました。これは、コンピューターチップの製造はチリひとつない清潔な場所で行わなければならないため、すすや汚れた水によってチップの製造を事実上、中断せざるを得なくなったことが原因でした。

 ノキア社は、このサプライチェーンの混乱によりおよそ400万台の携帯電話の製造が駄目になるとすぐに気が付きました。そして、幹部13人はヨーロッパ、アジア、米国に飛び、解決策を探しました。その結果、最終的にオランダと上海に必要なチップを提供してくれる工場を見つけることができました。

 同じくフィリップ社のチップに頼っていたエリクソン社の対応はノキア社より遅いものでした。同社の経営陣はより時間をかけ、問題の大きさを理解しようとしました。しかし、チップの不足がどの程度深刻か気が付いた時には、ノキア社に残りの生産量を抑えられてしまっていたのです。

 その結果、エリクソン社は4億3千万から5億7千万ドルの損失を被る事になりました。フィリップ社の工場の火災から半年間で、ノキア社は市場シェアを27%から30%に増やしましたが、エリクソン社は12%から9%に減らしてしまいました。

 混乱から立ち直る力を持った企業と、その力を持たない企業の違いは明白です。ノキア社は次のような性質を持った企業文化のおかげで、この危機を乗り越えることができました。

危機を乗り越える企業文化とは

  • 指揮系統を通って悪い報せを迅速に伝える文化
  • 悪影響に対処するための迅速な対応や行動を支持する文化
  • 主要サプライヤーとの親密な関係を築く文化
  • 主要サプライヤーとその生産力を理解している文化
  • 多彩な供給源を持てるモジュール設計を使用する文化

 上記の話は、複数のサプライヤー、卸売り販売業者、小売店が関わっている、今日の複雑な世界的サプライチェーンの脆さを表しています。脆弱な部分は、何か良くないことが起こるまで明確にはならないのです。

 2000年3月21日、光ファイバーケーブルの敷設を行っている業者がアイオワ州の通信回線を遮断してしまいました。すると突然、KLMオランダ航空の飛行機が上海の滑走路から離陸できなくなってしまいました。この切断された米国西部通信回路を使ってノースウエスト航空はインターネット通信を行っており、そのインターネット通信を使ってコードシェア相手であるKLMの通信データを管理していたのです。通信回路の切断によりノースウエスト航空のオペレーションが中断されただけでなく、KLMも同様に停止してしまいました。では、KLMはどうすれば、アイオワ州の通信回路切断が、地球の裏側の飛行機を止めてしまうという事態を予測することができたのでしょう?

 企業は今、かつて無い程競争の激しい環境で運営されています。いつまでも障害物につまずいている暇はありません。目の前にある大きな障害によって市場シェアを簡単に失い、競争相手にその一部を奪われてしまうかもしれません。

ここの事例であげられている2社は業務システムというより、小さな事故から発生した2次災害であることは間違いありません。1つのトラブルが発生したとき、そのトラブルを解決するだけでなく、その先にある不測の事態をも予測してそれを解決しない限り、大きな被害をもたらしてしまうことは間違いありません。

企業を弱体化させる5つの要素

 次の3つの質問について考え、自分の会社の脆弱性を測って下さい。

1、悪い方向に向かう可能性のあるものは?

2、悪い方向に向かう可能性は?

3、悪い方向に向かった場合の影響は?

 次の要素が、企業を弱くしています。

企業を弱体化させる5つの要素

 1、無駄の無い手法

 合理的な製造やジャストインタイム生産などを行うことで、プロセスからできる限りの能率性を絞り取った企業には、失敗や遅延に対する余裕がほとんどありません。

 2、テロリズム

 自分の企業がテロリストの生み出す混乱に影響されることはないと考える事のできる時代は終わりました。例え、その混乱がはるか遠くの地で、知らない人が標的になったテロ行為の結果生じたものだとしても、その影響を受けてしまいます。

 3、供給の分断

 最も重要な部品や装置について考えてみて下さい。多くの場合、潜在的な問題は目に見えません。例えば、キーレスエントリー・システムを動かすチップがなければ、フォード社4は車を販売することができません。

 4、内部混乱

 全ての問題が社外で発生するわけではありません。自分の会社だけに影響を与える出来事があります。例えば、経営者が飛行機事故で亡くなった場合や、米国中西部にある工場の1つが竜巻で吹き飛ばされてしまった場合、企業の生産は突然停止してしまいます。

 5、避けられない混乱

 技術的変化や市場変化、景気低迷などの出来事は、強制的に混乱を生み出してしまいます。

 ここで言及されていることは非常に重要なことと思います。概して企業は自分の強みを考えることは利益創出という企業の最優先事項があるゆえに頻繁に行われることでしょうが、逆に危弱性について考えることはあまり行わないものです。但し、危機管理という側面を考えるならば、社内のシステムとその周辺のつながりを考えながら弱点を知り、有事に備えるべき事なのです。

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