証券会社といえば、上意下達の縦割り組織で軍隊式のノルマ営業というイメージがあったが、それも今や昔。証券各社は現在、多様化する顧客ニーズに応えようと、柔軟な組織づくりに知恵を絞っている。企業組織におけるコミュニケーションに着目し、マネジメントの革新に取り組んでいる軒名彰SMBC日興証券常務執行役員に話を聞いた。
SMBC日興証券というのは2011年4月に付けられた新しい社名だが、その前身はもちろん、野村、大和、山一とともに四大証券と称された日興證券だ。軒名氏は「弊社には今、多種多様な人材がいる」と話す。それは'90年代以降、金融市場が経験した激動の反映でもある。
同社は三菱グループ企業の主幹事を引き受けることが多く、三菱系の証券会社といわれていた。しかしバブル崩壊後の平成不況の中、米国のシティグループの協力をあおぎ、いったんは傘下に収まったがリーマンショックのあおりでシティグループを離脱。三井住友フィナンシャルグループの一員となり、現在に至る。
「もとからの日興證券の社員に加え、シティグループの価値観を持っている人もいれば、大和証券SMBCにいた人、現在の親会社である三井住友銀行の出身者もいて、価値観も違えば、思考回路も違う。一人ひとりは優秀でも、その叡智をひとつのものとするのは簡単ではない」(軒名氏)
証券と銀行の融合に加え、三菱、三井、住友に外資系のカルチャーまで混在する。こうした状況に応じたマネジメントを軒名氏はつくろうとしている。「異なるバックグラウンドを持つスタッフがチームを組んで仕事を進めるとき、最も重要なのはコミュニケーション能力だ」と軒名氏は力説する。
軒名氏は個人顧客向けのリテール部門を中心にキャリアを積み、常務としても全国各地の支店を担当する。ところが2011年3月、近畿地方をはじめとする西日本の法人営業を任され、今度は法人向けビジネスの最前線に立った。
「毎日のように上場企業の経営トップと会い緊張と勉強の連続。個人向けでは管理職や個々の営業マンの能力を引き出すことに努めてきたが、法人向けの営業では相手先の組織にこちらの組織が向き合うという形になり、チームマネジメントが極めて重要となる。それが現在のわたしの最大の課題」(軒名氏)
その事例として、軒名氏はこんな話をしてくれた。顧客企業が中国での新規ビジネスを検討しているとする。ほとんどの場合、経営企画、財務、営業などさまざまな部門がその計画に関わっており、資本政策等を支援する証券会社も相手先の部門ごとに専門の担当者が対応する。
「同じSMBC日興証券の社員であっても、担当するポジションによって顧客先に於ける現状認識に微妙な差異がある。ひとつの問題解決のソリューションをまとめ上げるのは簡単ではない」(軒名氏)
なぜか。それは「コミュニケーション、その中でも情報の共有に難しさがある」と軒名氏は考えた。電子メールをはじめとするITツールの普及により、ビジネスの現場での情報共有はスムーズになったかに見えるが、情報の微妙なニュアンスや介在する人間の機微などその活用はまだ不十分だからだ。
「社内のチームで情報の共有化を図るには、情報のコンテンツを知らせ合うだけでは不十分。その情報の背景にある価値観や感情の流れについても理解しなければ、本当の情報共有とはいえない。ドラッカーによると、イノベーションとはITに代表される科学技術の進歩だけではなく、生産性の低い状態から高い状態にすること。これを踏まえて証券会社のイノベーションを考えるならば、チームマネジメントが鍵となる」(軒名氏)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授