メンバーにとってチームリーダーとはどうあるべきなのでしょうか。必要なポイントを解説します。
前回は、チームワーク2.0のメンバーが持つべきチームワークスキルを紹介しました。今回は、リーダーが持つべきチームワークスキルについて考えていくことにしましょう。
まず、チームワーク2.0におけるチームの定義を改めて見てみましょう。
目標: チームの目標と期限がある
役割と相互関係: メンバーにはそれぞれ専門性に沿った役割があり、メンバーの仕事は相互関係がある
対等: メンバーには上下関係がない
自治: チームは自己管理の裁量がある
ここにあるように、チーム内には組織的な階層構造はなく、メンバーはすべて対等です。唯一、階層として呼べるとしたら、ただ一人のリーダーと、メンバーの関係です。社会組織心理学の研究で著名な、ハーバード大学のJ・リチャード・ハックマン教授は、チームリーダーには3つの重要な仕事があると示しています。第一に、チームを具体的に定義すること、第二に、チームを編成し役割を設計すること、第三に、チームが目的を達成するようにマネージすることです。
チームを定義するとは、目的と方向性の設定、メンバーの定義、必要なリソースの確保をすることです。この仕事においてリーダーは、チームおよびチームの外にある組織との両方に対して、コミュニケーションや交渉をすることになります。一方、リーダーがこの仕事をするにあたって、とても重要なことがあります。それは、リーダーのアイデンティティの確立です。組織やメンバーにリーダーであるという認識が十分でないと、チームの定義から行き詰まることがあるからです。
リーダーが十分なアイデンティティを獲得するためには、ロゴス(論理)、エトス(特質)、パトス(情熱)の3つが必要だと言われています。ロゴスとは、リーダーが組織の責任者から正式に任命されていることです。そんなことは当たり前だろうと思う方もいるかもしれませんが、正式な任命が徹底していないため、事実上リーダー的な動きをしている人が、「何であの人が?」と思われている状況もあります。
では、正式な任命があれば、それで十分だと思う方もいるかもしれません。しかし、本当にリーダーだと思ってもらうためには、このチームのリーダーとしてふさわしい経験や知識を持っているということ(エトス)を知ってもらうことが必要です。この理解が不十分だと、「彼(彼女)にできるの?」と思われるかもしれません。最後にパトス、リーダーが、チームの目的の意義に賛同し、その達成に情熱を持っていることです。もし読者のチームリーダーが「上から言われたから・・・」などと言ったら、どんな気持になるでしょう。しっかりしたパトスがあることが理解されれば、エトスが少し不十分でも、リーダーとしてのアイデンティティはつくられると思います。
日本の文化的環境では、自分でこのようなことを知ってもらうことは、少し抵抗があるかもしれません。本来は、組織の責任者がリーダーをこの3点を踏まえて紹介することが望ましいのですが、リーダーが自己紹介するときに、さりげなくでもよいので、これら3点に触れることを心掛けるとよいと思います。また、皆さんがリーダーを紹介するときにも、このことに触れているか確認してみるのもよいでしょう。
新しいチームをつくるときでも、既にあるチームのメンバーになったときでも、チームリーダーがまずしなくてはならないことは、チームの目標とビジョンの設定です。これは、何のためにこのチームが存在するのかという基本的なことを定義することですから、とても重要です。前回、チームは民主主義の都市国家のようだと述べましたが、こと目的と方向性だけはリーダーが独自で決めるもので、メンバーの多数決や相談で決めるものではありません。
チームの目的は、チームの上位にある組織の責任者と一緒に決定するものですが、できるだけ具体的にし、かつその達成度合いが客観的に測定可能な形にするべきです。次に方向性ですが、チームの目的が会社や社会にとってどのような理由、価値、意義を持つのかを分かり易い言葉で説明します。これによってメンバーや組織が感動しパワーが強くなるとともに、メンバーの視線が同じ方向を向くようになります。
リーダーは次に、目的を達成するために必要なスキルや知識を持った人をチームに入れ、メンバーとして認識してもらう必要があります。ここで重要なことは、メンバーである人とそうでない人の境界を明確にし、メンバー本人とその組織の責任者が認識できるようにすることです。リーダーはまた、チームが目的を達成するための予算、場所、情報システム、情報アクセス権などを獲得するために、組織と交渉しなくてはなりません。一般的に、当初から満足するリソースが獲得できることはまれでしょう。リソースを無駄使いしないためにも、不足気味のほうがかえっていいかもしれません。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授