データは分析してこそ価値――日本企業の苦手、情報活用に目を付けたブレインパッドの草野社長ビジネスイノベーターの群像(1/2 ページ)

情報活用は日本企業にとって「永遠の課題」といえる。草野氏はいち早く企業が持つ購入履歴などのデータ分析に目を付け、ブレインパッドを創業した。データ活用で日本企業が抱える課題を解決する。

» 2012年01月12日 08時02分 公開
[聞き手:浅井英二、文:大井明子,ITmedia]

 ブレインパッドは2004年に草野隆史社長が創業。以来順調に業績を伸ばしており、昨年度の売上高は前年比48.7%増を記録。今年2011年9月には東証マザーズに上場を果たした。

 「かつては営業に行くと、"顧客動向を分析しようにもデータがない"と言われることが多かったが、今は、多くの企業が"データはあるが分析ができていない"と言っている。遅かれ早かれこういった状況になると思っていたので、2004年の起業はギリギリ間に合った、と感じている」(草野氏)

大企業指向ゼロで社会人に。起業目指し経験積む

ブレインパッドの草野社長

 同社の顧客は、業界のトップ5に入るような大企業が多いという。

 「マーケティングは結果が定量的に測定できるので効果が分かりやすく、データ分析を外注しても利益が改善するのが目に見えるためサービスを継続してもらいやすい。まだデータ分析を専門に行う会社少ないためあまりライバルがいない」(草野氏)

 「まだ始まったばかり」というデータ分析ビジネスだが、草野氏がこの事業にたどり着き、起業するまでにはユニークな助走期間があった。

 草野氏は昔から大企業志向ではなく、「自分が世の中に必要だと思うものをビジネスにして起業し、世の中に問いたい」と考えていたという。

 「会社の中でやりたいことをやろうと思っても、同期だけでも数百人、数千人いる大企業では競争を勝ち抜いて出世し、実現するまでに何十年もかかってしまうため魅力を感じませんでした」(草野氏)

 しかし、当時はインターネットが普及する以前。ベンチャー企業もそれほど華々しいものではなかった。かといって、一度サラリーマンになり、給料をもらい始めるとそこに安住して辞められなくなるのではないかと考え「就職しても、いつでも辞められるという覚悟を得るために」就職せず、大学院に進学。友人と小さな会社を始めたり、ライターの仕事などで「自分ひとりが食べていける程度には何とか稼いでいける」という実感を得た。そして大学院を卒業し、サン・マイクロシステムズ(現日本オラクル)に入社した。

 ここでも目的ははっきりしていた。「ベンチャーのにおいを残したところで、1000人規模の企業のダイナミズムを学びたかった」と草野氏は言う。

 しかし、当時のサン日本法人は、米国の製品のローカライズが中心で、決定権は基本的に米国本社にあった。給料は悪くなかったが、長居をするとハングリーさがなくなるような気がして約2年で退職。大学院時代の友人らを中心に、インターネットプロバイダー向けのインフラ提供を行うフリービット・ドットコム(現フリービット)を立ち上げた。2000年のことだ。

データの活用で、ホワイトカラーの生産性向上を

 フリービットへの参画は、「ベンチャー立ち上げを経験したかった」のが大きな理由だったという。そしてここで、後のブレインパッド創業につながる、「自分が世の中に問いたいと思うテーマ」を見つけることになった。

 「当時は、エンドユーザーの環境がナローバンドからブロードバンドに切り替わりつつある時期で、ネットワークの中を駆け巡るデータの量が急増するのを目の当たりにした。しかし、こうして増加するデータを、企業が本当に活用できているのだろうか、と疑問を持ち始めた」(草野氏)

 製造業では目一杯の生産性でモノづくりをしているが、日本の人口はこれから減少するため、このままでは国の競争力が低下してしまう。この流れを止めるには、ホワイトカラーの生産性を上げるしか道はない。一方で、インターネットの普及によりデータ量は確実に急増していくだろう。データの活用を促すことで、ホワイトカラーの生産性を上げ、日本企業の力になれないだろうかと考えた。

 「データ分析を専門的に手がけている企業はまだなかった。少し早いとは思ったが早めに始めておかないと、いざ“旬”が来たときに間に合わないと考えた」(草野氏)

 「データはためるだけではリターンはゼロ。分析し活用できるかがカギ」と草野氏が言うとおり、今や多くの企業でたまりゆくデータが「宝の山」になる可能性に気付き始めている。しかし、まだどう活用すればいいかが分からないという状態だ。

 ブレインパッドの顧客企業は、金融、ECサイト、流通、外食チェーン、広告代理店、出版など多岐にわたる。例えば、数百万人について、過去の行動履歴に基づいて、特定の商品を購入する確率を計算し、確率が高い方から並べることができれば、購入確率の高い人に絞ってダイレクトメール(DM)を送ることができる。例えばやみくもに100万人にDMを送って5万人しか反応がなかった。しかし、データ分析により50万人にDMを絞り込んでも5万人の反応が得られる確証があれば、コストが大幅に削減できるというわけだ。

 個人情報に関する心配について「識別IDさえあれば、個人の名前や電話番号などの個人情報はわれわれのデータ分析作業には必要ない。過去の行動情報さえあれば、分析はできる」と草野氏は説明する。

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