全国から約2万7000件の名刺制作を受注をする札幌の小さな印刷会社の成功の秘密は、地道な社会貢献にあった。
印刷業界は、従業員規模300人未満の中小事業所が全体の99.8%、20人未満の小規模事業所が90%弱という、小規模・零細企業が圧倒的多数の業界です。
PCやデジタルカメラの普及により、一般の方でも文字や画像をPCなどで作成できるようになりました。それに伴いアナログ時代に印刷業が受け持っていた文字入力業務やカラー分解による画像入力業務が無くなり、印刷物そのものの需要も減少していることなどから、印刷事業者数は毎年減少しています。
こうした業界状況の中、日本全国から名刺制作を受注する従業員7人の小さな印刷会社が、丸吉日新堂印刷です。同社は北海道札幌市にあり、地の利は決してよくありません。しかも扱っているエコ名刺は他社の名刺よりも割高です。しかし名刺制作の注文は2万7000件に達し、その8割が道外からのものであり、リピート率は9割にも達しているといいます。
なぜ丸吉日新堂印刷に名刺の注文が殺到するのでしょうか? それは、これからご説明いたしましょう。
丸吉日新堂印刷はバナナペーパーを使った名刺を制作しています。発端は、阿部晋也社長が数年前にスウェーデンの環境コンサルタント ペオ・エクベリ氏と出会ったことです。エクベリ氏は安部さんに、伐採後の不要になったバナナの茎を活用することで木をまったく切らずに紙を作れること、そしてそれがアフリカ・ザンビア共和国の雇用創出につながることを熱く語りました。
ザンビア共和国には政府の援助で学校があり、子どもたちの教育機会はあります。しかし大人たちには教育機会はありません。そのため病気(エイズなど)の知識がなく、平均寿命が36才位と短命です。産業もまだ発達しておらず、国民全員が働けるような十分な仕事もありません。先進国からやってきた外国人によって違法な就労や伐採が行われていましたが、経済的な理由で受け入れざるを得ませんでした。
安部さんとエクベリ氏はこのような現状を変えることに多少なりとも貢献したいと思い、エクベリ氏がもともと交流のあったサウスルアングル国立公園近くの村の酋長に「伐採したバナナの茎から紙が作れるんだよ! 新しい職を作りませんか?」と話をし、酋長の理解を得たのです。
こうして、ザンビアの村でバナナペーパー作りが始まりました。
ザンビアの女性は、生まれて初めて仕事を経験しました。これまで男性は1日1ドル程度の収入を得る仕事はありましたが、女性が働く仕事はありませんでした。しかし、1日3〜5時間バナナペーパーの生産工程の一部を受け持ち収入を得ることで、彼女たちはいま人間らしく生活することに近づいています。
「児童労働をさせない。フェアトレードの精神でしっかり安全に配慮する」という安部さんたちの思いから、労働条件はしっかり整備されています。現地では労働者全員が同じTシャツを着用し、希望を持って働いています。
バナナペーパー作りは、まずバナナの茎から水分などの余計なものを取りのぞき、次に天日干しをして乾かします。その後乾かしたバナナの茎を日本に運び、埼玉にある日本で唯一の無薬品・無加熱でパルプをつくる工場で、古紙(70%)と持ち込んだバナナの茎(30%)を細かくカットして古紙と水を加えます。
最初はいろいろ大変なことがあったそうです。初めて現地から日本にバナナの茎を持ち帰ったときは、なかなか通関が通りませんでした。税関の人になぜバナナの茎を持ってくるのかが理解されなかったからです。輸送は本当は船を使いたかったのですが、船だと日数がかかって途中でカビてダメになるリスクがあったので、飛行機で日本に運びました。
ザンビアの雇用を継続させていくのは、実はそれほど難しいことではありません。例えば、日本の従業員4000人規模の会社が名刺の材料をバナナペーパーに切り替えるだけで、1年間に約200人のザンビア国民が生活できる仕事が生まれます。阿部さんはほかの印刷会社にも呼びかけて、ザンビアのバナナペーパーを一緒に販売してもらえるパートナーを広げる活動に力を入れています。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授