ユニ・チャームは「失われた20年」の期間に企業価値を最も高めた企業として有名だが、その企業価値向上の原動力として海外展開を最も成功させた企業の1つでもある。高原氏が2001年に社長に就任してからの10年間で、海外売上高を278億円から1598億円に、全売上高に占める比率を13.1%から42.4%にまで伸ばした。成功の要因はどのようなものであろうか?
昨年の東日本大震災、欧州債務危機などの国際情勢による超円高継続の経験などを経て、今年は多くの日本企業で本格的なグローバル化、オープン化が展開される年ともいわれる。そこで、「海外進出企業に学ぶこれからの戦い方」と題して、今回から隔月6回の連載で既にグローバル化を進めている企業の事例に対する筆者なりの考察を行う。グローバル化を進める各企業の取り組みに、わずかばかりでも参考になれば幸いである。第1回は、2002年からの10年間で海外売上を5.7倍に引き上げたユニ・チャームを取り上げる。
ユニ・チャームの海外進出は1984年からスタートしているが、積極的な展開に転じたのは90年代後半からである。2011年4月時点では、ベビーケア(ベビー用紙おむつ)、フェミニンケア(生理用品)、ヘルスケア(大人用排泄ケア用品)の主力3事業を主に14の国と地域で販売し、9カ国で生産している(同社HPより)。同社のプレミアムブランドは競合他社に比べ高額、高付加価値商品であり、その進出先を決定する際には以下のような基準を持っているようだ。
・マーケットが成長前期か黎明期に参入する(遅ければ提携かM&A)
・市場規模、特に高価格製品が投資に見合う市場規模がある
・製品の良し悪しを見分けられる消費者が存在する
・コストコンロトールが可能
・広告宣伝と営業を効率よく展開するインフラがある程度整っている
この基準に加え、同社は市場の消費者の収入が一定割合に達するとケア商品に対する支出が始まるという分析を行って進出のタイミングを測っている。例えば、生理用品の場合はGDPが1000ドルを超えた時、紙おむつの場合はGDPが3000ドルに達した時に一気に普及が進むという具合だ。このような一定基準を持って海外展開を行っているが、同社の戦略の興味深いところは市場の成熟度やニーズ、そして同社の進出状況に合わせてきめ細かなマーケティング戦略をとっているところである。
例えば、タイとインドネシアでのチャネル開拓手法の違いがある。まだ海外展開の速度が上がっていない2000年代前半にタイを攻略する時には、少ない経営資源を効果的に生かすために小売業態毎に優良企業1社集中の営業戦略を展開した。CVSではセブンイレブン、ハイパーマートではテスコ・ロータスといった具合だ。業態別の地域1番店を攻略すれば、他の小売店からの引き合いが来るという狙いである。
一方、インドネシアではP&G、キンバリー・クラークといった競合がカルフールや地場資本のスーパーマーケットでしか売り場を確保できていないところにつけ込むため、「ルワン」と呼ばれる雑貨店を地道に開拓した。「ルワン」はインドネシアに200万以上存在するといわれ、一般の家庭のように見える家の軒先で日用品を吊るしで販売しているところもある、庶民の一大流通経路である。ユニ・チャームは、インドネシアでの市場浸透を図るために、競合が手をつけられない地場流通網を開拓したのである。
また、商品展開や価格もマーケットにより異なる。先の例のタイでは、チャネルごとに数量の異なるパッケージを開発したり、チャネルによる顧客層に応じた販促品をつけたりするなどの工夫をした。インドネシアでは、200件以上の家庭に訪問して赤ちゃんのいる家庭を観察し、「ルワン」で買い物をする庶民が購入できる最低限の機能に絞った低価格紙おむつを開発し、更には紙おむつ1枚を小分けにしたパッケージも販売した。
このユニ・チャームのマーケティング戦略は、ターゲットマーケットの状況に応じて4Pの整合性、及びSTPと4Pの整合性をとってビジネスを展開するという、ある意味非常に教科書に忠実といえば忠実な戦い方である。また、物言わぬ赤ちゃんや自ら進んで多くの事を語りたがらない生理用品や大人用おむつユーザーのニーズを「観察」することでつかみ、他社とは異なる付加価値の高い製品を世に出し続けてきたユニ・チャームの日本で行ってきたやり方を踏襲したものといえる。
しかし、これを進出するマーケット毎にきめ細かく行うのは容易なことではない。多くのグローバル企業が、他のエリアで成功し、磨きあげた手法を可能な限り横展開するのとは一線を画しているように思える。なぜユニ・チャームは、当たり前といえば当たり前だが実践するのは難しいこの手法を展開し、成功を収めることができているのであろうか?
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授