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» 2012年01月18日 08時03分 公開

【新連載】海外進出企業に学ぶこれからの戦い方:「自社流」を貫きグローバルシェア10%を目指す――ユニ・チャーム (2/2)

[井上浩二(シンスター),ITmedia]
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ユニチャーム成功の秘密

 このヒントは、高原社長の最近の発言から読みとる事ができる。

 「(海外事業急拡大での人事戦略を問われて)現地の人材を管理職クラスでいかに処遇するかが問われているが……(中略)我々はむしろ日本国籍の人材をアジアにどんどん出していく。」(2011年1月6日 日経産業新聞)

「もし社長として私の(グローバル展開における)成果を問われたら、“優秀な人材を出した事だ”と自信を持って言うことができます。」(2011年7月11日 BIZGate)

 グローバル化に向けて社内公用語を英語にしたり、現地化の進展のために管理職クラスの現地採用を進めたりするという企業が最近は増えている。これに対して、ユニ・チャームは日本で育てたエースを海外に送りこむことで、自社のDNA、文化、仕事のやり方、そして戦略を理解した人材が中心になって「自社流」のビジネスが行える組織を作り、このコアメンバーが現地の人材も「自社流」に染めてビジネスを展開しているのである。当然のことながら、このような人材を作るには時間もかかるし、工夫も必要となる。ユニ・チャームは、そのために幾つかのツールと手法を用意し、社内で徹底している。これが、ユニ・チャームの「共振の経営」である。

 ユニ・チャームで共有すべき価値観、行動指針、そしてキャリアビジョンやキャリアパスをまとめた「ユニ・チャーム ウェイ」、経営陣のこれまでの重要な発言をまとめた「ユニ・チャーム語録」という2つの小冊子がある。これは、各国語に翻訳し、海外の社員にも配布されている。この小冊子は普段の仕事の中でも折々で参照され、共有すべきDNAや文化、そして考え方を共有している。

 そして、ベクトルを一つにした社員が一丸となって仕事に取り組む事を可能にしているのが、「SAPS経営」という手法である。ユニ・チャームでは、中期戦略実現のために半期で何をどのようになすべきかをまとめる「OGISM(A)表」というものがある。半期でどのような状態を作り上げ(Objective)、その時にどのような結果をもたらすか(Goal)を明示する。そして、その結果を実現するための課題は何か(Issue)を明確にし、その課題解決のための戦略(Strategy)を立て、その進捗を測るための指標(Measurement)を設定しておくというものである。

 これを実現するために、月次、週次で行動計画を立てて実行する。SAPSとはSchedule→Action→Performance→Scheduleの略で、ユニ・チャーム流のPDCAなのである。OGISM(A)表で立案した目標を達成するために、週次で30分単位の行動計画を全員が立てる。そして、経営レベル、部門レベル、チームレベルのSAPS会議を組織横断で行い、レビュー・アドバイスを行うことで目標達成のためにとるべき正しい行動をとることができるようにする。多くの企業では四半期や月次で回すPDCAを、週次で全社員参加型で回すスピード経営をユニ・チャームは実践しているのである。その結果、マーケット毎のきめ細かな戦略を立て、実行することが可能になっているのだといえよう。

 このPDCAをある意味愚直に回すという方法を組織全体に浸透させるのは、一朝一夕では実現しない。ユニ・チャームも2003年から徐々に導入し始めて、現在に至っている。その間には、社員からのさまざまな抵抗もあったと聞いている。その浸透には、経営陣の実践に向けての強固な意志があったのだと思う。筆者が2002年に同社を訪問した際に、社長に就任したばかりの高原社長は「私は父親のようなカリスマ性はないので、仕組を作って勝つしかないと思うのです。」というような事を言っていた。正にこの考えを長期間かけて実現し、グローバルに通用する「自分流」を作り、これを自社のグローバルスタンダードとして展開しているのである。

 ただし、「自分流」と言っても全て我流、オリジナルというわけでも何でもない。OGISM(A)表はP&Gの経営ツールを参考に、改善活動のUTMSSはトヨタ生産方式や京セラのアメーバ型組織を学んで作り上げたものである。また、SAPSは万国共通のPDCAの発展形である。良きものは他社から学び、それを単にサル真似するのではなく自社で咀嚼(そしゃく)し、自社で展開できる形にして浸透させているのである。

 これからグローバル化を本格化する企業にとって、ユニ・チャームの事例から学ぶところは多いのではないだろうか。長期的にグローバル市場で勝ち残っていくためには、もちろん他社の優れたやり方や環境変化を上手く取り入れた方法を検討していく必要があるが、一方で自社のDNA戦略を今一度見直し、その強さが生きる「自社流」を作りながらビジネスを進めていくのも重要だと筆者は思う。

 実践するのは多大な苦労を伴うが、ユニ・チャームも実際にはグローバル展開を加速した時期にこれを行っているのである。このような取り組みが、進出したマーケットでの差異化された付加価値を生む源泉になるのではないだろうか。ユニ・チャームにとっても、これからまだまだ新たな挑戦が続くのだと思う。

 加速するグローバル化を実現するために、昨年はベトナムでM&Aを行っている。今後は、中南米、アフリカを視野に2020年には売上1.6兆円を目標にビジネスを行うとのことだが、その実現にはM&Aは今後増えるかもしれない。買収する個社ごとに事情がことなるM&Aでは、これまでのやり方で「自社流」を展開するのは容易ではないだろう。日本流を超えた「自社流」を追求するユニ・チャームには、ぜひ新たなチャレンジでも成功を収めてもらいたい。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。


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