先に起こった東日本大震災を機に日本企業を取り巻く環境は一変し、社会・産業構造のさまざまな問題が一挙に噴出した。疲弊した日本をどのように再設計すべきか。
今年3月に起こった東日本大震災、震災の影響で発生した福島第一原発事故は過去に例がないほどの被害をもたらした。疲弊した日本を立ち直らせるためには、これまでの常識を超えた知恵や、起業家・技術・資本の組み合わせによる新たなイノベーションが必要になってくるはずだ。
そんな中、7月12日に開催された「スマートな経営のためのラウンドテーブル」では、クオンタムリープ代表取締役、出井伸之氏が講演し、今日本にとって必要な指針とは何なのか、また今後どのように日本を再設計すべきかを語った。その示唆に富む内容は、現在も手探りで事業を進める多くの企業にとって一条の光明となり得るのではないだろうか。
出井氏は講演冒頭、企業活動の復旧の迅速さを称賛した。
「震災被害について政府のその対応に遅れが目立つ一方、半導体や部品を含むサプライチェーンのストップを何とか防ぐべく、メーカー各社は必死で取り組んでくれた。また、企業同士がお互い助け合うことにより、驚くべきスピードで復旧が可能になったのだろう」(出井氏)
このような国内メーカーの強さについては世界からの評価も高かった。同時に、メーカーを支える部品産業の重要性が改めて認識された。だが、その重要性にもかかわらず、部品メーカーは低利益しか生み出せない構造の中にあり、海外から疑問の声が上がっている。出井氏は、部品メーカーが陥っているこうした構造について、「現状では、エンドユーザーとの距離が近い元請けメーカーの力が強く、下請けである部品メーカーに苛烈なコストダウンが促されている。このような力関係が依然存在することが、この構造を支えているのではないか」と推測する。
企業の努力による迅速な復旧がある裏では、日本の産業構造が持つ問題が顕在化し、社会に目を向ければ震災被害における政府対応の混乱と迷走が際立ったという。
しかし、課題は震災以前から山積していたと出井氏は指摘する。
「例えば半導体産業は韓国に取って代わられ、PCやデバイスは今やその多くを台湾企業が生産している状況だ。そこに中国が加われば、どのような製品でも作ることができるといっても過言ではない」(出井氏)
日本はものづくり立国を標榜しながらも、中国をはじめとするアジア新興国にお株を奪われつつある。ものづくり産業のGDPに占める割合は2割程度になっており、ものづくりから得られる利益は下落する一方だと同氏は懸念する。
ただ、だからといってグローバル化するにしても、現地で生産し現地で販売するというかたちだと日本の税金収入はどんどん減少してしまうことになる。出井氏は「拠点、あるいは事業所を単に海外に移せばよいというわけではないにもかかわらず、そういった安易な解決策を求めすぎているのではないか」と釘を刺した。
また、もし本当にグローバル化を目指すならば、それに耐えるため本社の高いコストを圧縮する必要がある。グローバル展開の後も、日本で発生する固定費は日本の売り上げで賄えるようにしなければならないとも同氏は語った。
さらに、グローバルといっても、「今と昔では考え方がまったく異なる」と出井氏。
「およそ1990年代まではグローバルといえばアメリカを基本に考えていたが、多様化した現代社会においては、中国、インド、ベトナムなどのアジア新興国やイスラム圏に進出することもグローバル化の1つとして考えなければならない」(出井氏)
出井氏は、このような状況で日本がとるべき選択肢を3つ掲げた。1つは、今以上にアメリカに接近しその庇護の下で暮らすこと。もう1つは中国に同調すること。そして最後は、ほかのどの国にも頼ることなく独自路線をたどることだ。これら3つの選択肢を提示した上で「これまでのアメリカとの強固な信頼関係をベースに独自路線を進むことが次世代の役目となるだろう」と出井氏は自らの見解を示した。
グローバル戦略を再度熟考し、日本独自の方向性を見出していくことが今後世界で生き残る重要な鍵となるようだ。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授