日本の未来を考える別の視点として、出井氏は企業、社会におけるタテ型・ヨコ型構造を取り上げた。終身雇用制度や企業別の労働組合などに見られるように、日本は典型的なタテ型社会といえるだろう。製品を個別に開発、生産していたアナログ時代と呼ばれる1990年代までは、日本の強さは世界に誇るものがあった。しかし、デジタル社会へと移行した現在、生産方式は変化しつつあり、単に大量生産すればよいものは中国や台湾などに取って代わられることとなった。
世界ではヨコ型を指向する企業が大きく成長する時代になったのである。さらに、製造業だけでなくGoogleやFacebookといったITの分野でもヨコ型のプラットフォームを有する企業が多大な影響力を持つようにもなってきた。しかし、こうしたグローバルに展開するヨコ型企業は今のところ日本には見当たらない。
ただ、ヨコ型という構造は必ずしも日本に向いているわけではないと出井氏は指摘する。
「ものづくりにはむしろタテ型であることが有利に働く。例えば部品点数が何万点もあるようなものを組み立てる自動車産業にはタテ型が向いていたりする。技術開発を積み重ねた上でのタテ型組織で動いているうちに、結果としてヨコ型も付随する、そうした“超タテ型”ともいうべき構造に日本の未来はある」(出井氏)
単に規格品を大量生産するだけならばヨコ型産業が有利だが、技術開発を特定の分野に絞り、独自の産業としてそれに注力していくならばタテ型が優位であるということだ。
また、企業の戦略において、既存構造の下での延命戦略と新構造の下での成長戦略の2つがあることを出井氏は提示し、前者を「XYZ戦略」、後者を「ABC戦略」とした。その上で、21世紀においても競争力のある企業にしていくためには、XYZ戦略の不要部分を捨てつつもその戦略を否定することなくビジネスモデルを再定義する必要があると訴えた。
「例えばあるテクノロジーをXYZ戦略として有している場合、その延長線だけを考えていても未来はないだろう。今後競争力を高めていくためには、軸となるテクノロジーをどのように新たなマテリアルに生かしていくかというABC戦略を考えていかなくてはならない」(出井氏)
講演後の参加者によるディスカッションでも既存構造下での戦略の取捨選択が1つの論点となった。残すべきものを短期的な利益のために捨ててしまっては会社のそのもののアイデンティティを失いかねない。出井氏は、企業によって残すべき大切なものは各々異なるとしながらも「大切なものにこだわりを持ち、それを追求していくことが日本企業の強さでもある」と自身の考えを述べた。
「震災により浮き彫りになった諸問題について検証しながら、新たな思想で日本の未来を作っていくことがわれわれのミッションだ。日本は企業という多くの財産を持っているが、これをどう生かしていくかが今後重要となるだろう」(出井氏)
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授